漫画家・巻来功士の心ぴく映画コラム-『マジカル・ガール』
「功士的、心ぴく(心臓がぴくぴくするほど感動した?)映画コラム番外編、第49回」 今回の映画は、先入観をぶち壊し、思いもよらぬ展開で魅せるスペイン映画『マジカル・ガール』です。
これは、私のような映画狂には素晴らしいプレゼントのような作品でした。 まったく先が読めない。先入観の裏を行き、とんでもないラストが待っていて驚愕しました。 題名の「マジカル・ガール」がいったい誰なのか?その予想は見事に裏切られます。 ... 快感を伴う素晴らしい裏切られ方です。 出だしに流れる曲は、なんと現在演歌歌手の長山洋子のデビュー曲「恋は SA ・ RA ・ SA ・ RA 」、この日本のアイドルソングで躍る、日本アニメオタクの(薄幸の)少女の登場から圧巻。 この、不思議ちゃん的演出で先入観を持たされた観客(特に日本の観客)は、監督が用意した怒濤のトラップに巻き込まれ、次々に予想を裏切られることになるのです。しかし、そのどこに到着するか分からないジェットコースターに身を任せていれば、ラスト、真相が分かった時の快感は計り知れません。なんと、ブラックコメディーだと思っていた作品が、ノワール(暗黒・犯罪映画)の究極形として結実するのです(ある意味ハードボイルドの黄金比も含まれている?)。素晴らしいの一言です。
上っ面な日本オタクのスペイン人監督が作っている映画だと思っていた観客(特に、 YOU 的に憂い奴だと思っていた外人監督が、そうでない事を知った日本人観客)は、全ての観客に牙をむくような凄みがあるラストで心底震える事になると思います。これこそ監督の思惑に観客が嵌められた痛快至極な瞬間です。監督のしてやったりぶりが目に浮かびます。 これだけ、観客を裏切って綻びがない所は、過剰な説明を避け、観客の想像力に委ねている功績が大でしょう。これが邦画なら過剰にセリフで説明し、逆にリアリティを損ねてしまうのですが、そこは流石優れたノワールを排出するスペインの映画祭で作品賞、監督賞を受賞した本作、期待して損はありません。ただし、映画館などに飾ってある衣装や宣伝文句に引きずられ、変な先入観をもってこの映画を見ると、トンでも映画という事になっちゃいます。 そうでなければ、ラスト、どうしようもない男の純情と愚かさに共感し、胸を打たれる事必至の、大人のノワール映画として結実します。
この映画もやはりノワール好きの私としては、今年私的ベスト10入り確実(しまった、今年まだ3月なのに傑作だらけで、もうすぐ10本に達するのでは・・どうしよう(汗))な、功士的心ぴく度90点以上作品。心の底の平衡感覚を揺さぶるノワールの傑作。是非、挑戦して見て下さい。ノワール映画狂の私が超お薦めする名作です
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マジカル・ガール
3月12日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー!
監督: カルロス・ベルムト
出演: ホセ・サクリスタン、バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ、ルシア・ポジャン
2014年/スペイン/カラー/127分/シネスコ 配給:ビターズ・エンド