漫画家・巻来功士の心ぴく映画コラム-『ロブスター』
「功士的心ぴく(心臓がピクピクするほど感動した?)映画コラム番外編、その第48回」 今回は、コリン・ファレル(「アレキサンダー」「マイアミ・バイス」)主演、レイチェル・ワイズ(「ナイロビの蜂」)共演の不条理な寓話的ブラックコメディー映画『ロブスター』です。
独身者は捕まり収容所的ホテルに入れられ、その中で45日以内に伴侶を見つけられなければ動物に変えられてしまう世界。と言っても、いわゆるSF映画ではありません。安部公房、筒井康隆の小説、テリー・ギリアム(「未来世紀ブラジル」)スタンリー・キューブリック(「時計じかけのオレンジ」)の映画を思い浮かべて貰えれば近いと思います。
主人公デヴィッド(コリン・ファレル)が妻に捨てられたので捕まり、このホテルに愛犬(犬に変えられた実の兄)と共にやって来る所から話は始まります。他の登場人物の名前は、<近視の女><鼻血の出やすい女><滑舌の悪い男><心のない女>等、寓話的言葉でしか語られません。まさに{名は体を表す}個性的な面々が暮らす収容所ホテルの中、運よくカップル成立となった2人は、ダブルの部屋で2週間...のお試し期間を経て、更にヨットの生活をし、カップリングが成功したとみなされると街に戻されます。ホテルの周りの森には、逃げた独身者が隠れていて、麻酔銃を使い狩りが行われ、一人狩るごとに + 1日の猶予が与えられます。そんなデストピアでの日常が、マイケル・ベイ的世界とは対極の演出で淡々と語られていくのです。コリン・ファレルもいつものマッチョなヒーローなどではまったくありません。見事に、だらしなく太鼓腹が突き出たオジサンに肉体改造して挑んでいます。その結果、まさしく大傑作、ゾッとして、大笑いし、考えさせられ、ラストは感動し、そして長く尾を引く名作になっていました。
先に述べた通り、安部公房、筒井康隆、テリー・ギリアム、スタンリー・キューブリック好きには堪えられない一本です。少しおかしな世界というのは、テリー・ギリアムが参加していた英国ギャグ番組「モンティーパイソン」的風刺が効いていて、シニカルでアイロニーに満ちた寓話世界そのもの といっても良いでしょう。それをもっと、深くダークに描いていて、身に詰まされる描写の連続になっています。人間達が不条理な圧迫を受け、モガキ7転8倒する世界を、現代社会に生きる我々と違和感なく重ね合わせてみる事が出来るのは、やはり名優たちのリアルで見事な演技の賜物でもあると思います。
森に逃げた主人公デヴィッドが出会う独身者のリーダー、レア・セドゥ(「007スぺクター」「アデル、ブルーは熱い色」)、冷徹なリーダーそのものの演技が見事です。そして近視の女、レイチェル・ワイズ、今年46歳でこれほど可愛い女性を演じる事が出来るとは、見事以外のなにものでもありません。 他の脇役も全て奇跡的演技の連続です。 ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督作は初見だったのですが、そのタッチに見事にやられました。前作、前々作も必ず探して、観ようと思います。それほどハマった超お薦めの不条理劇。
功士的心ぴく度95点以上、確実に私的ベスト10に入る傑作です。
ロブスター
2016年3月5日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラスト渋谷他にて大人気公開中!
【CAST】
コリン・ファレル『トータル・リコール』/レイチェル・ワイズ『ナイロビの蜂』
ジェシカ・バーデン『記憶探偵と鍵のかかった少女』/オリビア・コールマン『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
アシュレー・ジェンセン「アグリー・ベティ」/アリアーヌ・ラベド『ビフォア・ミッドナイト』
アンゲリキ・パプーリァ『籠の中の乙女』/ジョン・C・ライリー『少年は残酷な弓を射る』/レア・セドゥ『美女と野獣』
マイケル・スマイリー『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』/ベン・ウィショー『007スペクター』
【STAFF】 監督:ヨルゴス・ランティモス 『籠の中の乙女』
脚本:ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ
2015/アイルランド・イギリス他/カラー/英語・フランス語/118分
公式サイト: www.finefilms.co.jp/lobster
©2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film,The British
Film Institute, Channel Four Television Corporation.