漫画家・巻来功士の心ぴく映画コラム-『ディーパンの闘い』
「功士的、心ぴく(心臓がぴくぴくするほど感動した?)映画コラム番外編第45回」は、敬愛するジャック・オディアール監督の最新作『ディーパンの闘い』です。 「預言者」「君と歩く世界」と私的にその年々のベスト1級の名作を打ち出してきた監督作ということで、初日に劇場へ。 なんと、今までのオディアール監督の映画より、人間ドラマはシンプルで、その分ラストの爆発力はまさに、良い意味でベスト級のノワールアクションの風格満点の傑作になっていました。 主人公ディーパンは故郷のスリランカで政府と闘っていたタミル人ゲリラ、亡命する為に許可がおりやすい家族持ちだと嘘をつき、即席の妻と娘と共にフランスへと渡って来ます。ここまでのエピソードが、テンポよく分かりやすく面白く作られていて、演出の妙に唸りました。...
ディーパンを演じるのは、実際に16歳から19歳までゲリラとして戦い、今は亡命先のフランスで詩人・作家として活躍するタミル人アントニーターサン・ジェスターサン。仮の妻役はインド人女優カレアスワリ・スリニバサン。仮の娘役は本作デビューの少女カラウヤタニ・ヴィナシタンビ。荒廃したフランスの小都市のアパートで管理人として肩を寄せ合い暮らす亡命一家を自然体で淡々と演じていて、ドキュメンタリーのような雰囲気が素晴らしい効果を上げています。ただ真面目に幸せに暮らしたいだけの一家、慣れない異国で言葉や文化の違いに苦しみながらも、一家は地域に溶け込もうと懸命に努力します。徐々に偽物の一家は家族としての絆を深めてゆきます。そも切なく身に詰まされる描写が見事です。そして、ディーパンの貧しくても争いがない幸せな世界で暮らしてゆくという夢が叶いそうになった矢先、皮肉にも進んだ国家であるフランスで望みもしない戦いを始めなければならないとは・・・。
男の切なさ、深い怒りと悲しみが爆発します。この、名作を見つつ奇妙な既視感にとらわれました。そうです、過去に観た映画の文法によく似ているのです。異邦人の土地で幸せに暮らそうとした主人公が、皮肉な事にその幸せの為に暗い過去の自分自身と向き合わなければならなくなる。それはまさに西部劇の文法。「シェーン」などその典型です。そして大好きなチャールズ・ブロンソンの「チャトズ・ランド」現代西部劇「マジェスティック」にもとてもよく似ていると思いました(人種も体型も違うのに、デビューの頃のブロンソンに雰囲気が似ていると思ったのは私だけ?)。そうです、この「ディーパン~」はまさにハードボイルドの王道。後半観客全てが胸の中で<行け行け>コールを叫び始める事必至です。この映画も間違いなく今年の功士的映画ベスト10入り確実の名作です。しかし、作る映画が全て名作とは、ジャック・オディアール監督恐るべし!
心ぴく度90点以上~どこまで行くか分かりません。とにかく、男の生きざま全開、ハードボイルド全開の、しかし繊細さも重ね持つ珠玉の人間ドラマの名作です。是非ご覧ください。
ディーパンの闘い
監督・脚本:ジャック・オディアール
脚本:ノエ・ドブレ、トマ・ビデガン
出演:アントニーターサン・ジェスターサン 、カレアスワリ・スリニバサン、ヴァンサン・ロティエ、カラウタヤニ・ヴィナシタンビ
2015 年/フランス/フランス語・タミル語/115 分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/原題:
DHEEPAN/日本語字幕:丸山垂穂
配給:ロングライド
公式HP: www.dheepan-movie.com
2016 年2 月12 日(金)、TOHO シネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネ
マほか全国公開
© 2015 - WHY NOT PRODUCTIONS - PAGE 114 - FRANCE 2
CINEMA - PHOTO: PAUL ARNAUD
◆巻来功士先生の自伝的漫画『連載終了!』(イースト・プレス刊)好評発売中!
あの頃のジャンプでの7転8倒を描写!映画愛にもあふれた漫画です。ぜひご一読を!