top of page

漫画家・巻来功士の心ぴく映画コラム-『グランド・ジョー』


「功士的、心ぴく(心臓がぴくぴくするほど感動した?)映画コラム、番外編第43回」 今回は、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で開催中の 未体験ゾーンの映画たち2016 で上映の映画『グランド・ジョー』です。 久々のニコラス・ケイジ主演作。そして久々に、魂が震える演技を見せています。 まさに名作「リービング・ラスベガス」の名演が戻ってきました。

現代、南部アメリカが舞台です。繁栄から取り残された街、明らかに低所得者ばかりの街、そんな中で、家族を支える為働かざるを得ない15歳の少年。その少年を雇う、伐採作業の仕事を生業にする主人公ニコラス・ケイジ。元札付きだったらしい事がわかります。警察署長がケイジを見つめる目が限りなく温かい...

その少年を、自分の子供のように可愛がるケイジ。しかし、その少年の親父はアル中のDV男。親父に殴られながらも、口のきけない妹(明らかに精神的な原因、その原因は想像するだに恐ろしく、切ない)を庇う少年。けっして、ウェットにならず淡々とした語り口が素晴らしい。このタッチは私が最高に大好きなアメリカン・ニューシネマのものに他なりません。心に闇を抱えながらも、静かに暮らそうとしている主人公ケイジ。しかし、その闇の深さが、つい過剰な暴力に結び付いてしまう。その後の、情けないような切ないような表情のケイジの演技の素晴らしさ。彼はマッチョ俳優ではなく確実に演技派俳優という事に気付かされます。そして、再び彼が自分のテリトリーである人間ドラマを選びつつある事に嬉しくなりました。

ラスト、どうしようもなく追い詰められた人々が、正しい方向、そして悪しき方向に、その性(さが)を爆発させます。まさに、人間ドラマとしての決着が待っています。ラストに流れるカントリーソングの曲と詩の素晴らしさ。唸りました。こんなに胸震える映画を見たのは久しぶりです。紛れもない名作でした。もちろん、心ぴく度95点以上。DVDは必ず買います。しかし、なぜ、この2013年制作の名作が今日まで上映されなかったのか?やっと上映されたら、全国で2館だけ、それも週に数回で、もう上映終了とは・・。後で調べてみたら、このデヴィッド・ゴードン・グリーン監督はベルリン映画祭銀熊賞を受賞しているにもかかわらずその作品は我が国ではDVDスルー、他の作品は未公開だらけ、上映されているのはハードなブラックコメディーの傑作「スモーキング・ハイ」のみ。おそらく、こんな隠れた名監督が世界には溢れているはずです。単館が潰れ、シネコンばかりが増え、同じエンタメ映画ばかりが上映されている昨今、なんとか、我が国の映画関係者が目覚める事を祈願し、世界の真の名作が我が国の映画ファンの眼に届く事を願いながら、この「グランド・ジョー」がなるべく早くDVDで見られる事を望みます(出来れば、もちろん劇場で再上映を!)。そんな超お薦めの、今年公開映画のベスト5に確実に入る,男の生き様を脳髄に叩きつける、感涙の名作です!是非!

グランド・ジョー

ベネチア国際映画祭 マルチェロ・マストロヤンニ賞受賞

過去を持つ男、ジョーは、父親の暴力に耐え家族の面倒をみる少年・ゲイリーと出会う。ジョーはゲイリーを救うため、ある行動にでるが…。ニコラス・ケイジの久しぶりの熱演が光る、ヴェネチア国際映画祭受賞作

監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン

原作:ラリー・ブラウン(「JOE」)  

出演:ニコラス・ケイジ/タイ・シェリダン 配給:カルチュア・パブリッシャーズ  

2013年/アメリカ/117min

【R15+】

DVD『グランド・ジョー』

発売元:カルチュア・パブリッシャーズ

販売元:TCエンタテインメント

発売日:2016年3月18日(金)

価格:DVD 3,800円+税

(c)Joe Ransom, LLC

◆ 巻来功士先生の自伝的漫画『連載終了!』(イースト・プレス刊)大好評発売中。あの頃のジャンプでの7転8倒を描写!映画愛にもあふれた漫画です。ぜひご一読を!

後でもう一度お試しください
記事が公開されると、ここに表示されます。
bottom of page