イベントレポート『ヘイトフル・エイト』種田陽平×栗山千明×高橋ヨシキ
クエンティン・タランティーノ監督による雪山のロッジを舞台に“ヘイトフル”なクセ者8人が殺人事件をきっかけに「嘘」と「嘘」をぶつけ合う密室ミステリー『ヘイトフル・エイト』が、2月27日(土)より公開。
ハリウッドでも独自の撮影スタイルを貫くことができる稀有な存在であるタランティーノ監督第8作目となる本作でも、その奇才ぶりは遺憾なく発揮されている。今では撮影も上映も難しくなっている70mmフィルムでの全編撮影、フルキャストを揃えての1ヶ月に及ぶリハーサル、真夏のLAでスタジオセットを氷点下に凍らしての撮影、挙句に由緒あるスタジオを掘ってしまう等等。
この度、日本の映画制作現場では考えられない、いやハリウッドでさえ型破りなタランティーノの映画づくりの秘密を、「ヘイトフル・エイト」、「キル・ビル vol.1」の美術監督を務める種田陽平と、「キル・ビルvol.1」に抜擢された女優・栗山千明と映画秘宝アートディレクター、映画ライター・高橋ヨシキがたっぷりと語り尽くしたトークイベントがスペースFS汐留にて行われた。
MC:まず、お二方に一言ずつお願いいたします。
種田陽平(以下、種田):今日はお寒い中ありがとうございます。一般の方の試写会は今回が初めてなのですが、傑作ですので楽しんでください!3時間あっという間です!
栗山千明(以下、栗山):本日はお越しいただきまして、ありがとうございます。私は『キル・ビル』という作品でタランティーノ監督とお仕事をさせていただいて以来、彼の作品の大ファンになりまして、本作もすごく楽しめました。今日はその面白さを少しでもお伝えできればと思います。
MC:それでは本作について、改めて詳しく教えてください。
種田:『キル・ビル』みたいな派手な作品ではないけど、アメリカでは”マスターピースだ!”といわれてますね。ただ、血だらけなのは変わらないです(笑)
高橋:今回も予想を上回る血の多さで、そこも楽しめます。もちろんそこだけじゃないですよ(笑)
栗山:私はタランティーノ監督のブラック・ユーモアが好きなのですが、今回ミステリー要素もあって、犯人は誰だろうって自分でも推理できるんです。3時間という長い時間なんですけど、ずっと観ていられるのは、脚本だったり、役者の演技が素晴らしいからだと思います。
高橋:ブラック・ユーモアと一口に言っても、映画で表現するのはすごく難しくて、例えば本作では、女性のキャラクターが思いっきり殴られるシーンがあるんですけど、それを女性が観ても笑えるシーンになっていますし、それができるのはタランティーノだからだと思います。
種田:クエンティンは、人種差別をしないんですよね。差別意識が無いから、そういうシーンがあっても清清しささえあります。
高橋:みんな等しく酷い目に遭いますもんね(笑)
栗山:『キル・ビル』の撮影時がそうだったのですが、同じ空間にいると、酷いシーンがどんどん楽しくなってきて周りにそういう空気感が感染するんです。私自身もアイディアを出して、監督に提案できるようなアットホームな雰囲気がありました。
種田:彼は撮影をやめようとしないんです(笑)なんでやめないのって聞いたら、「映画作りが好きだから」って言うんですよ。例えば、彼は脚が好きなんですが、『キル・ビル』では、栗山さんだったりユマ・サーマンの脚のシーンを何度も撮ってるんで す。しかもアングル変えて何度も。本作では、駅馬車から次々と人が降りるシーンがあるのですが、一番こだわっていたのが踏み台でしたね。デザインや、きしみ具合にすごくこだわっていて、朝から撮っていて、昼に行ったら、まだ「もう一回!」とかやってるんです。
栗山:脚フェチの話だと、『キル・ビル』の撮影の際、制服のデザインは早い段階で決まっていたのですが、最後まで靴と靴下のデザインに悩んでいました。試作品を作ってまでこだわっていましたね。
MC:そういうこだわりの部分が、高橋さんにとっては堪らないのでしょうか?
高橋:彼の作品を観ていると、色んなシーンで脚へのこだわりが感じられますよね。今回は女性の脚は出てこないけど、さっきの駅馬車のシーンは話を聞く前から良い音するなと思っていました(笑)
MC:種田さんにタランティーノから二度目のオファーを受けた時はどういう気持ちでした?
種田:嬉しくもありましたし、プレッシャーもありましたね。
高橋:これは例えれば、アメリカ人が時代劇のセットを作るようなものですよね。種田さんに伺いたかったのですが、山小屋のセットだと光源が限られると思うのですが、それはどうしたんでしょうか?
種田:通な質問ですね(笑)。確かに光源は限られたので、天井の隙間越しにライトの光を漏らしたらどうかとクエンティンに提案したら、大喜びしましたね。あと、スタジオの中も零下5度の気温に保って撮影をしました。なので、キャストたちの白い息は全部本物なんですよ!これにはキャストたちもさすがに参っていました。みんなシーンが終わるたびにすぐ外に出ていっていましたよ(笑)
MC:タランティーノの魅力って何なんでしょうか?
栗山:撮影がすごく楽しいんです。もちろん現場は大変なのですが、スタッフのチームワークも良いですし、彼自身が気配りもして、現場の雰囲気を良くしようとしますね。
種田:彼は役者さんが大好きなんです。役者さんを演出しているのがものすごく好きだから、「もう一回!」って言って、何テイクも撮るんです。「良いんだけど、もう一回!」って。
栗山:確かにそんな言い方しますね!
種田:最近はさらに変わってきて「OK!だけど、もう一回!」って言うようになって。すると周りのスタッフがみんなで「Because,We love making film!」て言うんです(笑)役者さんは嫌とは言えないですよね。
高橋:70mmフィルムで撮った本作ですが、カメラが大きいから撮影は大変だったのでは?
種田:70mmは、35mmに比べて横にすごく長いんです。そして映像も決め細やかだから、是非、大きなスクリーンで観て欲しいですね。人物配置が横長ひとつの画面に入るんです。 だから、結末が分かった後、もう一度観る楽しさもありますよね。
高橋:音楽の話になりますけど、今回はモリコーネに書き下ろして頂いたんですよね。
種田:これまではすでに出来ている楽曲を使っていたけど、今回は現在87歳の憧れのモリコーネに書き下ろしていただいたわけだから監督にとっても感無量でしょうね。
高橋:タランティーノは10本映画を撮ったら引退するって言ってますが、今回こうやって奇跡的に実現してよかったですよね。
種田:『キル・ビル3』もまだ可能性残っていますからね(笑)
栗山:そうなんですか?!でも、私の役死んでますしね。当時の役でも、大分歳が、、、(笑)
MC:栗山さんはまたタランティーノ監督と仕事したいですよね?
栗山:もちろんまたご一緒したいです!タランティーノと会う度に話すのが、「千明、英語の勉強はしてる?」、「その代わり僕が日本語を覚えるよ」って言うんですが、お互い上達していないです(笑)
種田:彼はよく、「あっそう」って日本語を使うんです。あと千葉真一さんの真似で、「ベリーグー!」て言葉を使うんですよね。英語と分かっていないみたいで、日本語だと思って使ってます(笑)
MC:種田さんは次のタランティーノとの作品の予定はありますか?
種田:僕は彼の4本目、8本目の作品に関わってますから、次は12本目でしょうか。でも、今回参加できて本当に良かったです。なぜならこの作品は“マスターピース”だから!皆さんもそんな風に宣伝して欲しいですね。
MC:全編が見所かと思いますが、どこに注目して観て欲しいですか?
種田:キリストの顔ですね。あと、セットがワンルームなんだけど、ワンルームに見えない。70mmだからこそですよね。あと、駅馬車に名前を付けてるんです。そういう細かいところも楽しんで欲しいです。
MC:高橋さんはどこに注目して観て欲しいですが?
高橋:前半が後半に向けてとても丁寧に作られているので、前半をしっかり観てれば観てるほど、後半が面白くなります。
MC:本日はどうもありがとうございました!
【STORY】
雪嵐のロッジに閉じ込められたクセ者8人、そこで起こる殺人事件。ぶつかり合う「嘘」と「嘘」、やがて浮かび上がる予想外の「真相」―。生き残るのは誰だ!?『イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ 繋がれざる者』などで映画愛に満ちたバイオレンス・アクションの世界を究め、アカデミー賞、カンヌ国際映画祭パルム・ドールなど数々の栄冠を奪取してきたクエンティン・タランティーノ監督が、初の密室ミステリーを完成させた!
舞台は山の上のロッジ、登場人物はワケありの7人の男と1人の女。人種も境遇もバラバラの8人、わかっているのは全員が嘘をついているということだけ。 犯人は? 動機は? 8人の本当の関係とは? 実はオープニングから、すべての会話と視線、何気ない身振りに、巧妙かつ緻密な伏線が仕掛けられている。タランティーノ印のブラックな笑いと過剰なアクション満載の謎解きに挑め!
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ 音楽:エンニオ・モリコーネ 美術:種田陽平 出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、 ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンス、デミアン・ビチル、 ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン
配給:ギャガ
(c)Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.
<公式サイト>http://gaga.ne.jp/hateful8/