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海外マンガ通信『Cambodia Chatter Boy 第4回 「カンボジア漫画家養成セミナー」


先日1つ嬉しいニュースがありました。

日本とカンボジアを結ぶ直行便が2016年の9月1日から就航するということです。ANAによる成田/プノンペンを結ぶものですが、実はこれまで日本とカンボジアの定期直行便というのが存在しませんでした。乗り換えなしならおそらく飛行時間は5時間程度とみられますが、これまで直行便がなかったので、かならず別の国の空港経由で乗り換えなければならなかったために、どうしても移動に1日かかってしまいました。 直行便の話は20年前から出ては消え、出ては消えということを繰り返している間に、距離的にはほとんど差のないお隣の韓国の大韓航空とアシアナ航空に、もう10年くらい前に先を越されてしまっていて歯がゆい思いをしてました。何度か韓国経由で日本に行きましたが、「なんでこんな手前で乗り換えないと日本に入れないんだ!」と残念に思ってましたので、我々在住日本人にとっては嬉しさも倍増のニュースでした。こうなると、日本の方たちにも、よりカンボジアが身近になり、また、カンボジアの人たちにもより日本に親近感を感じてもらえるのではないかと期待してます。同時にまた、日本の漫画文化もカンボジアへ入って来易くなるというものですね、嬉しいことです。

今回はその漫画の普及の一環として行っている漫画家養成セミナーについてご紹介したいと思います。

当コラムの第1回で紹介したように、カンボジアではネットのメディアを通じてアニメが先に入ってきて、コスプレも盛んになってきているものの、海外から入ってくる漫画の「本」は本当にわずかで、当然のことながらカンボジアのオリジナル漫画というものもこれまでなかったために、私の作品がカンボジア初のストーリー漫画になっております。しかし、カンボジアの文化に根差した、本当にカンボジア人が楽しんで感動できる漫画というのは、やはりカンボジア人が描くべきで、また、永らく代々継続していかなければならないというのが私の考えの基本でもあり、私の漫画出版と並行して、主にカンボジアの若者対象に不定期ながら「漫画家養成セミナー」を昨年7月から今年1月までに4回、6コース開催してきております。

第一回目のセミナーの様子、見る角度別の顔の書き方の練習

昨年7月の初めてのセミナーでは、私自身も試行錯誤しながらで、参加者も集まるかどうか不安の中でのスタートでしたが、フェイスブックで発見したアニメ・マンガのサークルを使って公募したところ、多くの問い合わせやフェイスブックの友達申請が殺到して、3日間で500人くらいのアニメ・マンガ・ファンの少年少女とフェイスブック友達になることができました。改めてカンボジアのフェイスブックの力を実感しました。 このようにほとんどの参加者はフェイスブックを見て集まってきたということからもわかるように、現在までの漫画セミナー参加者のほとんどは、いわゆる「いいとこのお坊ちゃんお嬢ちゃん」になっています。本来はもっといろんな層からの参加を期待したいところですが、急激な発展とは裏腹に貧富の差がどんどん広がるカンボジアなので、いくらセミナー参加費や教材費を無料提供としても、貧しい子たちはこうしたセミナーに参加できる余裕もなく、また、漫画ビジネスがまだ未成熟であるために、プロ漫画家を目指そうという意識も残念ながら育ちません。そういう意味でも、こうしてセミナーで漫画の描き方を教えるのも大事ですが、それと同じ、いやそれ以上に漫画のマーケットを開拓して漫画家が漫画を描いて生計を立てられるような土壌を育てることも、より大事であると実感しております。

第3回セミナー初級クラス、遠近法の基本

「いいとこのお坊ちゃんお嬢ちゃん」と書きましたが、そうは言ってもセミナーに参加してくる子供たちはただのボンボンというわけでもなく、漫画の魅力をよくわかっており、ナルトやワンピースなどの漫画のテーマもよく理解し、主人公たちの台詞に感動し、励まされ、涙し、コスプレで真似までする(笑)、そういう子たちなので、非常に純粋ないい感性をしています。そんなわけで現実的に見た場合には、カンボジアの場合はまずこの子たちの中から漫画家が育って、私と共に漫画ビジネスを興していってもらう、それがこの第一世代の役割であり、その作品を読んで感動したカンボジアのあらゆる階層から、さらに色んなテーマとメッセージを持った第二世代以降の漫画家の誕生を期待する、そうした段階的な発展がカンボジアの漫画普及には必要だと言えそうです。

 第3回セミナー初級クラス Gペンの使い方

さて、その現在のセミナー参加者たちのレベルはと言いますと、これまでのセミナー開催でわかってきたのは、本当にマンガが好きな少年少女たちは、身の回りの道具を使って好きなマンガのキャラクターや独自のキャラクターを、しっかり自分なりの表現で描いているということ。そうです、我々も子供のころにはGペンやインクはなくても、鉛筆やボールペンで好きな漫画のキャラを真似して描いたりしましたよね、これは世界どこでも同じです。そして、予想を上回る素晴らしい絵を描く子たちも沢山います。

中級クラス ソポルちゃんが描いてきたオリジナルキャラ

ただ、1枚の肖像画としてならば素晴らしい絵は描けても、いざ漫画となると、キャラクターを上下左右どの角度から見ても同じキャラクターだとわかる描き方を覚えなければいけませんし、人物だけ描けばよいというわけではなく、遠近法も学んで背景もしっかり描けなければなりません。そしてまた、何よりも読者に対してのメッセージを持ったしっかりしたストーリーも組み立てられなくては読者も飽きるし、長続きしません。このセミナー参加者の中から、そういうところを学んで、そこに楽しみを見いだせた子たちがカンボジア人初の漫画家たちになっていくのを期待して、今後もなるべく頻度を増やして、また、デジタルの技術なども含めて内容も充実させていきたいと思ってます。

前回のセミナーでは、参加2回目になる中級クラスの生徒たちに、誰もが知っているあのシーン、シンデレラがガラスの靴を残してカボチャの馬車へ駆け込むシーン、これを参加者皆に「コマ割り」してもらいました。私もワクワク期待して、さてどうなったかな~と、みんなのコマ割り作品を見てみたら・・・素晴らしい!予想以上でした。王道的にシンデレラ中心にメリハリ付けて描く子もいれば、ページの右と左にシンデレラと王子様を対比させてダブルキャストで描く子も、また、ここの主役はシンデレラでもなく王子様でもなく「ガラスの靴」だと割り切って靴をいきなり「ド・アップ」で出してくるものまであり、みんなちゃんと物語を自分で咀嚼して、それぞれ個性的に表現してくれました。ロクに美術の授業などもないカンボジアですので、みんなほとんど独学のはず、やはりアンコールワットを築いたアンコール王朝の末裔は美術の才に秀でていたのでしょうか(笑)、これからが楽しみです。

漫画家養成講座のポスター

そして、このセミナーの最後には、セミナーの修了証書に参加者の名前を書いて渡してあげてます。みんな喜んで、誇りに思ってくれて、自分のフェイスブックなどで友達に自慢してくれてます。これにより、漫画を描くモチベーションも益々アップして、また、それを見た友達が次のセミナーに参加してくれるという効果もあります。こんな風に、まだまだ芽が出たばかりで、成長はほんのちょっとずつかもしれませんが、確かにカンボジアの漫画文化が育ってきていることは実感してます。これから段々とこのセミナー参加者の皆さんとも協力しながら子供や若者によい感動を与えられる名作漫画が生まれるように活動を続けて参ります。

ニッジェイアンチュン(カンボジア語で「ところで・・・」) 漫画家養成セミナーに続けて、次はやはり、今年の末か来年くらいには「新人漫画コンテスト」も開催したいですね。こうして目標を具体的に定めてあげて、やる気を高めてあげるのも漫画家の卵たちにとってはセミナーと同じで一つのトレーニングになると思ってます。漫画家セミナー、コンテストに御協力いただけるカンボジアの日系の企業さん、他カンボジアへの海外展開・文化創出にご興味ある方は法人・個人問わずお気軽にご連絡ください。お問い合わせ。 【Mashiro】 少年期の夢はボクシングの世界チャンピオン、青年期の夢は漫画家で某少年漫画誌新人漫画賞の最終選考作品に名前を連ねていたが、就職と共に夢は自然消滅。その後サラリーマン、海外援助団体勤務を経て現在はカンボジアで会社経営しながらカンボジア初のストーリー漫画を制作・出版・販売、また、漫画家養成セミナーを開催してカンボジア人漫画家の育成を行いながら、昔の夢2つを同時に実現中。

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