功士的、心ぴく映画コラム番外編-『ブラック・スキャンダル』『ブリッジ・オブ・スパイ』
映画好きとしても知られる漫画家・巻来功士が、心臓がピクピクするほど感動及び興奮した作品”心ぴく映画”を紹介する映画コラムです。-
「功士的、心ぴく(心臓がぴくぴくするほど感動した?)映画コラム番外編第42回」
今回は、スター映画2本立て「ブラック・スキャンダル」「ブリッジ・オブ・スパイ」です。
『ブラック・スキャンダル』 昨年、予告編を見て期待しまくっていた映画です。まず、スコット・クーパー監督、ジェフ・ブリッジスがアカデミー主演男優賞を受賞した人間ドラマ「クレイジー・ハート」でデビュー。一昨年、私がベスト5に入れる位好きだったクリスチャン・ベール主演「ファーナス 決別の朝」を監督。その人が、悪名轟くアイリッシュギャング、ジェームズ・ホワイティ・バルジャーの実録ノワ―ルを撮るとは!まさに涎ものでした。 そして、この10年ほどファンタジー映画専門の仮装おじさんだった大スター、ジョニー・デップの本格的人間ドラマ演技復活の幕が上がりました。...
出来あがった映画は、ズバリ物凄い実話。ボストンのFBI捜査官(ジョエル・エガ―トン)が、幼馴染の凶悪ギャング・バルジャーを使い、ボストンを牛耳るイタリアンマフィアを潰そうと画策する嘘のような本当の話を描いています。そして、なんとバルジャーの実弟(べネディクト・カンバーバッチ)はボストンの上院議員。これも信じられない話。そこを、スコット・クーパー監督特有のリアルな演出でじっくりと描いていて、ジョエル・エガ―トン、カンバーバッチそしてケビン・ベーコン他脇役達の名演で、現実味満点です。し、しかし、リアルが命の実録ノワールでファンタジー映画のようにメイクをした仮装オジサン、ジョニー・デップが演技をやりだした途端・・。
メイク丸わかり(だってジョニー・デップだもの当たり前)で、リアルな演技など出来ませんよって、なぜ監督は言わなかったのでしょうか?それとも監督が仮装のようなメイクをしてくれと頼んだのでしょうか?メイクの弱点は、メイクが落ちるようなリアルな演技は出来ないという事です。
髪を振り乱す、転げまわる、セックスシーン、リアルな銃撃戦、この映画のライフルを撃つシーンはまるでターミネーターのように直立不動で歩いて行きます。バルジャーの持つ狂気を演出しているとすると、それは素顔で皮膚の震える演技をしなければ、狂気と仮装が相殺して、よくあるアクション映画の1場面にしか見えません。ジョニー・デップが師と仰ぐジャックニコルソンが「ディパーテッド」でバルジャーをモデルにしたギャングを演じていましたが、まさか、ジョーカー(ティム・バートン版「バットマン」)のようなメイクなどしていませんでした。髪を振り乱して顔面の肉を震わせていました。この「ブラック・スキャンダル」の欠点は、その一点です。しかも致命傷的な・・。しかし他の俳優は全て素晴らしい、ストーリーも面白い。エンドロールの実録映像など雰囲気満点です。しかし、なぜジョニー・デップが・・・謎です。実録物「フェイク」「ブロウ」などのように素顔で演じた傑作もあると言うのに・・・頭までファンタジーになってしまったという事でしょうか・・・?
誠に残念な映画ですが、ノワール好きの私にとっては見て損はありませんということで心ぴく度80点作品です。
『ブリッジ・オブ・スパイ』
演技派スター、トム・ハンクスとスティーブン・スピルバーグというスター監督が作った、文字通りスター映画です。冷戦下の米国・ソ連のスパイ引き渡し交渉をやらざるを得なくなった実在の弁護士の行動をじっくりと描いています。出だしが流石サスペンスの巨匠スピルバーグ、アメリカ国内に潜伏しているソ連のスパイが捕まるまでの描写が緊迫感に溢れていて素晴らしい。そして、主人公の弁護士トム・ハンクスの登場。正義感の強さが溢れています。そして、米のスパイ戦闘機がソ連に墜落、同時に米の留学生がスパイ容疑で東ドイツに逮捕。CIAは、ソ連のスパイと墜落機のパイロット、1対1の交換を望みますが、主人公は1対2、留学生の交換も同時に行いたいと主張します。困難が倍増されます。その、駆け引き、登場人物達の人間臭い演技にくぎ付けになります。ただ、一人、トム・ハンクスを除いては・・(「ブラック~」のジョニー・デップのように、致命傷になってはいませんが・・。い、いや、まてよ・・。)彼はこの人間臭いドラマの中で唯一、正義の人(ヒーロー)なのです。彼は、最初から最後まで、どんな苦難に会おうが爽やかにやり過ごします。まるで、ヒーロー映画のように・・。スピルバーグがまたまたやってしまったと思いました。人間ドラマにヒーローを出してしまうとは・・・。やはり、人間の演出をしてくれないと困ります。正直私は冷めてしまいました。しかし、話は真実です(主人公の人間味は、良い人という事意外、描かれてはいませんが)。主人公以外の人間ドラマは、全て完璧です。見て損はありません。ということで心ぴく度81点作品です。
『ブラック・スキャンダル』
監督:スコット・クーパー キャスト:ジョニー・デップ ジョエル・エドガートン ベネディクト・カンバーバッチ ロリー・コクレイン ジェシー・プレモンス ■公式サイト https://warnerbros.co.jp/c/movies/blackmass/
■レイティング:R15+ ©2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., CCP BLACK MASS FILM HOLDINGS, LLC, RATPAC ENTERTAINMENT, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
『ブリッジ・オブ・スパイ』
監督:スティーヴン・スピルバーグ、脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
主演: トム・ハンクス
(C)2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.
【NEWS!】
2月6日巻来功士先生の自伝的漫画『連載終了!』(イースト・プレス刊)発売開始!あの頃のジャンプでの7転8倒を描写!映画愛にもあふれた漫画です。ぜひご一読を!それに伴い、2月6日13時より阿佐ヶ谷ロフトで 『出版記念イベント』開催。 都合がつくかたはぜひおいでください! ■連載終了!(イーストプレス刊) ■2月6日13時~ 『出版記念イベント』(阿佐谷ロフト)