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海外マンガ通信『Cambodia Chatter Boy-カンボジアチャターボーイ』 第1回


第1回「カンボジアで漫画の芽が出ました」

はじめましてカンボジア在住の漫画家、Mashiroです。今回からCHATTERBOXでのコラムが開始になりました。私が現在在住しているカンボジアから、現地の漫画、アニメ、カルチャーなどの最新情報を発信し、日本の皆様にお届けしたいと思います。 まずは簡単な自己紹介から。私が初めてカンボジアに来てから23年、自衛隊が初のPKO活動で海外派遣されたカンボジア初の総選挙から22年が経ちました。他の多くのアジアの国と同様に貧富の格差はますます開いているものの、平和に経済も発展し、日本からの投資も急激に増え、首都プノンペンにおいては日本レストランも珍しくなくなり、スマホも日本以上に普及してどこに行ってもWiFiが当たり前、イオンモールもオープンから1年を迎えてきてますが、一つ足りないものがあります、漫画がない!

カンボジアは東南アジアに位置する立憲君主制の民主主義国家

日系の旅行社さんが「ドラエモン」や「クレヨンしんちゃん」などを翻訳して出版してましたが、カンボジア語は英語と同じ左から右への横書きのため、開く方向と読む方向が逆になって苦戦されてました。また、カンボジアのオリジナル漫画というものも残念ながら存在しなかった、というのがちょっと前までのカンボジアです。

このカンボジアのように、国が急激な経済発展をする際に一番後回しにされやすいものの一つに「道徳教育」が挙げられます。実際カンボジアを訪問されたことのある方ならご存知かと思いますが、道を行けば仁義なき交通戦争、お店や市場では割り込んだもの勝ち、公共のモノを使うマナーも我々日本人から見ると残念ながら非常にレベルが低いと言わざるを得ません。ただし、ご年配の方々を見ると、非常にマナーも良く仁義をわきまえている方が多いことから、現在のモラルの低下というのは、これまでの、鎖国、虐殺、内戦の時代を経た後の急激な経済発展の結果だとも言えそうです。 そんな時にこそ、漫画は単に娯楽にとどまらずに「道徳教育」になりえるのではないのでしょうか? 私も子供のころには漫画に夢と希望をもらい、知らず知らずに人の道というものを漫画から学んできました。やはりカンボジアが舞台でカンボジア語の漫画が今こそ必要だ! 誰もやらないのならやるしかない!

カンボジアの漫画はキオスクなどで発売されている

というわけで、かつての熱烈なマンガ少年が変な使命感に燃えてしまい、カンボジアのゴミ山の孤児院で暮らす少年がボクシングの世界チャンピオンを目指すという、完全オリジナルのストーリー漫画第一作「リングのうさぎ」の出版を開始、現在までに4巻まで刊行しております。

同時に、カンボジアの漫画はやはりカンボジア人に描いて欲しい、ということで漫画家養成セミナーを2,3か月に1度のペースで始めております、カンボジア人プロ漫画家の誕生ももうすぐです。

今後カンボジアの漫画普及の状況とともに、通常目にするメディアではなかなか伝わってこないカンボジアの生々しい最新情報をお伝えして参ります、どうぞお付き合いよろしくお願いします。

Mashiroさん作のコミック『リングのうさぎ』

「ヒーロー・ヒロイン不在のカンボジア」

サッカー・ワールドカップの予選、日本vsカンボジアが11月17日にプノンペンのスタジアムで開催され、日本からも多くのサポーターが詰めかける中、近年のカンボジアのスポーツのイベントとしては、かつてない盛り上がりを見せてくれました。 結果は2対0で日本が勝ちましたが、試合当時のFIFAランキングでは日本の50位に対してカンボジアは183位という歴然の差があり、実際試合でも9割方日本がボールをキープして再三再四ゴールを攻める展開でありながらも、前半は0対0、後半なんとか2点を取ることができたという感じでした。その中で、特に光っていたのはカンボジアのゴールキーパー、セレイロアッス選手(Um Sereyroth)の好セーブの数々。圧巻は後半開始直後、日本代表岡崎選手のPKを見事に止めて大喝采を浴びました。カンボジアチームの名実ともに守護神と言えるセレイロアッス選手はあの試合を機にカンボジアでも人気が急上昇りとなり、私も彼のファンになりました。

セライロアッス選手

こうしてカンボジアの選手が国際大会で活躍してくれるのは非常に感慨深いものがあります。というのも、1992年、私が初めてカンボジアに来て以来ずっと寂しく感じていたのは、カンボジアには「ヒーロー・ヒロイン」がいないということ。日本の戦後の発展の原動力の一つには、国民的ヒーローやヒロインが日本国民を元気づけてくれたことも挙げられると思います。力道山さんが空手チョップでバッタバッタとアメリカ人レスラーを倒したり、長嶋茂雄さんが期待通りにヒットやホームランを飛ばしてくれたり、あるいはオリンピックで日本代表選手たちがメダルを取るのを国民が一丸となって応援する、そんなスター選手からみんな元気をもらっていました。 芸能界でも、誰からも愛される美空ひばりさんのような国民的歌手や、石原裕次郎さんのような国民的俳優がいて、あるいは世界のクロサワ、黒澤明監督による日本初の国際映画賞受賞にも日本全体が活気づけられました。その他研究分野でも日本初の湯川秀樹さんのノーベル物理学賞受賞など、やはり同胞が頑張る姿に対して応援がしたくなる、そしてその活躍から元気を返してもらえるというのは人間の本能とも言えると思います。 しかしながら、カンボジアではこれまでにオリンピックのメダリストもなく、格闘技の世界チャンピオンもなく、また国民的歌手や俳優もある程度有名な人はいますが国民的とまではほど遠く、カンボジア人たちのヒーローやヒロインというのは、海外のスポーツ選手であったり、韓国K-POPの歌手たちであったり韓流ドラマの俳優たちだったり、そして、日本のアニメの主人公たちだったわけです。

私Mashiroが最初に描く漫画に「スポ根」を選んだのにはそういう背景もあったわけです。どんな分野でもいい、カンボジア人が胸を張って世界に誇れるものが出てきて欲しいという願いが込められてます。 ※注.横書きなので日本とは逆に、左→右、と読みます。

そんな風にこれまでヒーロー・ヒロイン不在であったカンボジアですが、先述のサッカー・ワールドカップの守護神セレイロアッス選手や、もう一人忘れてはいけないのが、2014年の韓国仁川でのアジア大会、日本の報道でも韓国ジャッジの判定疑惑が相次いだあのアジア大会において、女子テコンドーのシウメイ選手(Sorn Seavmey)がカンボジア初となる金メダルを獲得するという快挙を成し遂げました、しかも韓国のお家芸であるテコンドーの金メダルを韓国でです!カンボジア人初のオリンピック・メダリストに最も近いこのシウメイ選手、私も心から応援してます。

女子テコンドーのシウメイ選手

今後も漫画による若者たちへのメッセージ発信や、漫画家養成セミナーなどを通じて子供や若者たちを励まし、世界チャンピオンやメダリスト、あるいは、国民的漫画家(笑)などがこのカンボジアにどんどん誕生するためのお手伝いを私も頑張って続けていきたいと思います。

-ニッジェイアンチュン(カンボジア語で「ところで・・・」)-  今自分の肩書を「ストーリー・コミック・アーティスト」とか「ストーリー・マンガ・アーティスト」とか英語から取ってきて言ってますが、新しい職業(?)のため、カンボジア語には正式に日本語の「ストーリー漫画家」に相当する単語が存在しません・・・この機会に何かカッコいいカンボジア語の肩書を考えたいですね。 【Mashiro】 少年期の夢はボクシングの世界チャンピオン、青年期の夢は漫画家で某少年漫画誌新人漫画賞の最終選考作品に名前を連ねていたが、就職と共に夢は自然消滅。その後サラリーマン、海外援助団体勤務を経て現在はカンボジアで会社経営しながらカンボジア初のストーリー漫画を制作・出版・販売、また、漫画家養成セミナーを開催してカンボジア人漫画家の育成を行いながら、昔の夢2つを同時に実現中。

後でもう一度お試しください
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