【レポート】京アニ&Doイベント「私たちは、いま!!」。監督対談!!
2015年、10月31日。京アニ&Doファン感謝イベント「私たちは、いま!!」のイベントステージにて、石原立也監督(「中二病でも恋がしたい!」、「響け!ユーフォニアム!」)、武本康弘監督(「映画 ハイ☆スピード!」)、山田尚子監督(「たまこまーけっと」)、石立太一監督(「境界の彼方」)ら、京都アニメーション所属の監督4人による、監督対談が行われた。
近年、原作付きの作品に留まらずオリジナルタイトルも多数製作し、ますますファンからの熱い支持を集める作品を作り続けてきた監督たちは、スタジオでいったいどんなやりとりを行って作品を作ってきたのか? ファンからの質問を中心に様々なクリエイティブな発言が飛び出した!!
――ファンの方からの質問です。「数あるアニメ製作会社のなかで、なぜ京都アニメーションを選んで入社したのでしょう? また、京都アニメーションに入社してよかったことは何ですか?」
石原:入社前、僕は専門学校に通っていたんですが、会社説明会で京アニの専務が話してくれた内容に魅力を感じたのがきっかけです。 石立:僕も専務や社長の朴訥な人柄にひかれました。会社自体もすごく朴訥な社風で、ここなら長く仕事できそうだな、と。 山田:私が入社したのは、大学の就職活動で探していたらたまたま見つけたのがきっかけです。石立さんがおっしゃったように、朴訥で人の心を何より大事に考える社風でして、私も、ここでならずっと仕事できそうだな、と。
――ここで他社のアニメーターの方から質問が来ています。「京アニ作品の質密度にはいつも驚かされていますが、限られたスケジュール内でどうやってあんなに凝った作品を制作なさっているのでしょう?」
石原:うーん……(しばらく考えて)。おそらくですが、スケジュール期間に関してはあまり他社さんと変わらないと思います。 違いを挙げるとしたら、全スタッフが京アニの社屋にぎゅっと集まっていて、「こうしようよ」と思いついたら担当者と直接すぐに話し合いができるところじゃないでしょうか。先ほど京アニのいいところを非常に朴訥な会社だと言っていたように、打ち合わせが非常にしやすいです。 ――なるほど。多人数で制作するアニメーションにおいて、打ち合わせがしやすいというのは大きなメリットですね。 石原:でも逆に、仲間内だからわかってくれていると思い込んで、ちゃんと伝わってないことも多いですよ。 石立:いやいや、それは石原さんの言葉が足りないだけだと思いますよ? 僕や武本はちゃんと通じてますし。 武本:僕は京アニいちの打ち合わせ上手と言われていますからね。 山田:いや、私は、石原監督の打ち合わせには齟齬がなくて、全作品が石原さん印になってると思いますよ? だって作中に登場する体操着が、全部ブルマですし。 武本:うん、ブルマですね。 山田:スタッフ全員が(自主的に)ブルマを描いてこようとしますから。
石原:そんなことはないです(笑)、ちゃんとスタッフにお願いして描いてもらってます。
――ファンの方から多く寄せられた質問に、”脚”の描写に関するものが非常に多かったのですが、キャラクターの”脚”に特別なこだわりが?
石原:脚でこだわりがあるのは山田さんじゃないかな? 武本:脚フェチですから。
山田:語弊があります(笑)。脚は緊張してるとたくさん動いたりして、感情表現が出ますから。
――山田監督にお伺いしますが、先輩の監督方からどんな刺激を受けてきましたか? 山田:演出デビューしたのが石原さんが監督している作品だったのですが、石原さんの仕事を間近で見ていて、そのキャラをどれだけ好きかどうかが重要なんだなと教えてもらいました。 石原:自分が好きじゃないキャラをお客さんに好きになってもらえるかな? と思いますからね。料理を作る仕事と似ていて、自分が美味しいと思えないものをお客さんに出せません。 山田:石立さんからは、原画を見てもらいながら、「ここをこうするといいよ」とアニメのギミックをたくさん教えてもらいました。ものづくりがすごく好きな方でマニアックに突き詰めていくので、一緒に仕事しててすごい楽しかったです。 武本さんは理屈がしっかり通った方で、コンテの行間に無駄が一切ないんです。考えつくしているから作品の全体像が全部見えているんでしょうね。最終的にぜんぶ武本さんの手の中だったな、と毎度感じてましたね。
――ファンからの質問です。「私は将来アニメ監督になるため勉強中です。日常の生活のきらめきを切り取った素晴らしい作品を作っている監督方は、毎日の生活の中でどんな瞬間に作品にしたいと思う光景に出会っているのでしょう?」 山田:私の場合、自分自身がいない状態で日常を観察するんですが、人と人が関わろうとしているとき、どんな動機なんだろう? と想像しては感動しています。例えば「おなかすいたな」と思う人を見るだけで感動するんですが、自分の想いに素直であればあるほど感動して、作品にしたいなと思います。 石立:僕も、マンウォッチングが基本だと思います。『寅さん』シリーズの山田洋二監督の作品や本を読んで学んだことですが、映画監督や演出家の仕事って、自分が見聞きしたものをどんなふうに素敵に感じたかをどうすればお客さんに伝わるかをアウトプットすることなんだ、と。いくら歳を重ねても感動する心だけは常に持っておきたいなと思っています。 武本:僕の場合は、任された仕事を一生懸命やっていたら監督をやらせていただいただけで、自分を作家や監督だと思ったことはないんです。ただ、ひとつだけ言わせてもらいますと、風景でも何でもいいんですが、”出会い”がないと、自分から何かを作ろうとは思わなくて。
――石原監督が日常で感じるきらめきの瞬間はなんですか? 石原:『響け! ユーフォニアム』で高校を取材させてもらったときに見た、女の子たちの姿や仕草が素晴らしかったですね。そういったものを参考にしてますし、作品にも反映されていると思います。
そのうえでアニメーターや監督になりたい人にアドバイスするとしたら、電車に乗っているときや歩いてるときにスマートフォンを見てないほうがいいですよ。人や風景で素敵な瞬間は日々の生活の中にあって、努力しないでも見つけられると思うんですね。それを見ないでスマートフォンを見ているのはもったいないな、と感じてます。
――ほかの監督方からも、アニメーターや監督志望者に対するアドバイスはありますか? 武本:先ほど”出会い”が大事だと話しましたが、この歳まで仕事を続けてみて、自分がどんな人間かを見極めて研ぎ澄ますことも大事だと思いましたね。若い時になりたいものに対して「なりたい!」って、がむしゃらに取り組むことも大事なんですが、自分の内側を掘り下げて自分がどんな人間かをわかっていると、作品を作るにあたってお客さんに「これだ!」と出せるものができる。それがわかっていると、そのうえで何が作れる? どう戦える? というのが見えてきます。 石立:僕は武本さんと逆の考えなんですが、若い時こそがむしゃらに取り組むべきだと思うんです。興味のあることにいっぱいチャレンジしているうち、成功と失敗を経て答えが出てきますし、最終的に残ったものが自分の武器になる。 武本:確かに。自分の武器の候補はいろいろあるから、それを見極めるためにはいろいろ挑戦してみたほうがいいね。 石立:やらないうちから結論付けるのは早いんじゃないかな、と。 ――100個の中から選ぶのと、10個の中から選ぶのは違いますしね。 ――山田監督からアドバイスはありますか? 山田:私の場合シンプルで、物事を肯定的に見る、ということです。斜めに見た、皮肉的なアイロニーな視点も大事だと思いますが、愛を持って見ないと、お客さんが気持ちよくなる作品が作れません。そこは、自分の内側を表に出す立場の人間としては大事にしてます。
――では最後に、監督方からお一人ずつメッセージをお願いします。 石原:本日は当イベントにお集まりいただきありがとうございました。この会場にお集まりの方でアニメーターを目指している方がいらっしゃいましたら、展示されている原画などを見てモチベーションになってくれたら嬉しいです。 武本:同じく、当イベントにお集まりいただきありがとうございました。私からアニメーターを目指してる方に言いたいことは、早まるな! です(笑)。 石立:本日はどうもありがとうございました。ブースに展示されている原画はアニメーターのみんなが描いた原画でして、やはり肉筆の原画はいいなと思うので、ぜひ見ていってください。 山田:本日はありがとうございました。遠いところから来ていただいた方もいると思うんですが、京都以外から来られた方、どれくらいいらっしゃるんでしょう? (会場の半数以上のお客さんが挙手) 山田:すごい! ありがとうございます! ホテル取れました? この時期の京都は紅葉がとてもきれいなのでそちらも楽しんでいってください。
――本日はどうもありがとうございました!
■京都アニメーション HP
■アニメーション ドゥウ HP
「中二病でも恋がしたい!戀」 (C)虎虎/京都アニメーション/中二病でも製作委員会、「たまこラブストーリー」(C)京都アニメーション/うさぎ山商店街、「Free!-Eternal Summer-」(C)おおじこうじ・京都アニメーション/岩鳶高校水泳部ES、「映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-」(C)2015 おおじこうじ・京都アニメーション/ハイスピード製作委員会、「劇場版 境界の彼方 –I’LL BE HERE- 過去篇・未来篇」(C)鳥居なごむ・京都アニメーション/境界の彼方製作委員会、「響け!ユーフォニアム」(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会、「無彩限のファントム・ワールド」(C)秦野宗一郎・京都アニメーション/無彩限の製作委員会
(取材・写真/hosaka)