昭和期に一世風靡した漫画「くるくるクルミちゃん」初のアニメーション化!作画監督・本多敏行氏インタビュー
昭和の画家 松本かつぢ氏(1904~1986)による漫画「くるくるクルミちゃん」がいま、話題を呼んでいます。「くるくるクルミちゃん」は1938(昭和13)年に連載が始まり掲載誌を変えながら足かけ35年にわたり連載が続いた少女漫画の先駆け的作品。このたびクラウドファンディングで資金を集め、老舗アニメ制作会社エクラアニマルの手で3分間のアニメーションになりました。
作画監督の本多敏行さんとプロデューサーの豊永ひとみさんにクルミちゃんへの思い入れをインタビューいたしました!
「くるくるクルミちゃん」作画監督:本多敏行さん
1969年、「Aプロダクション」(現・シンエイ動画)に入社。 1982年、作画集団7人で、「(有)あにまる屋」を設立(2007年に「(株)エクラアニマル」と商号変更)
最初の仕事は「巨人の星」。Aプロ時代、第一作目の「ルパン三世」から原画担当。
1980年「ドラえもん のび太の恐竜」、1981年「怪物くん 怪物ランドへの招待」、1982年「怪物くん デーモンの剣」等の、劇場版の作画監督を担当。 自主制作では 1992年「お母さんのやさしい手」を皮切りに、1993年から一連の「だるまちゃん」シリーズを毎年1本制作。2003年には念願だった、上田トシコ原作「フイチンさん」を制作。
2007年 オリジナルキャラクターアニメ「キャラ丸くんとドク丸くん」を制作。 2009年の 「キャラ丸くんとドク丸くん」、2012年の「かっぱのすりばち」(福島の創作民話)は、ともに文化庁の助成をうけて制作。
2016年 ちばてつや原作「風のように」アニメーション制作予定。
―― アニメ化おめでとうございます。クルミちゃんがどう動くのだろう、と思っていましたが可愛かったです。本当にイメージがぴったりでした。
本多: この業界に入ってからは自分はスポコンものをやっていたので「かわいい」ものから遠ざかっていたんですが、ちばてつや先生の「俺は鉄平」ぐらいのころから自分が描くキャラクターがどんどん設定より小さくなっていったんですね。それで監督から「小さい」とか「足が短すぎる」ってよく言われたんですけど、描いているうちにどんどん小さくなっちゃって。でもちば先生のキャラクターも最初はすっきりしているけれどだんだん小さくなっていったのでこれでいいのかなって(笑)
最初は「巨人の星」とか「ルパン三世」のような当時としては大人っぽい体系をしたキャラクターをやったんですけれど、でも「天才バカボン」や「ど根性ガエル」をやりだしたときに小さいほうが自分には合ってるのかなと思いました。デッサンをちゃんと勉強してないのですがギャグ漫画だとちょっと関節が曲がってもいいかな、って(笑)それでドラえもんや怪物くんのような小さいキャラも描いたんですが。
ただ以前、幼女誘拐事件がおこってから自分のやっていることが子供のために役に立っているのかなって疑問を感じて 自主制作で「だるまちゃん」をやりだしたんですが「だるまちゃん」も小さいですね。
――かつぢ先生の絵も抒情画から始まって だんだん小さく、童画になっていったので重なるところがありますね。
本多:小さい子って体重移動ができなくてヨロヨロするじゃないですか、このヨロヨロ感をアニメの、限られた枚数でどう描くかでしたね。
――上田トシコさんの「フイチンさん」をアニメ化したことからのご縁だそうですが。(※上田トシコは松本かつぢ氏の愛弟子)
本多:クルミちゃんの漫画は人気がありましたから世代的に子供のころからずっと知っていました。ただ自分は男の子で女の子の漫画に入り込んで読むということはなかったんです。でも「フイチンさん」は男の子でも平気で読むところがあって少女漫画を借りて最初に読むのが「フイチンさんでした。復刻版が出たときに上田トシコさんのところに行って「ぜひアニメにさせてください」と言ったのがきっかけですね。「フイチンさん」も線がシンプルで難しかったんですが講談社の丸山編集長にも「よかったよ」って及第点をいただいてほっとしました。
――クルミちゃんを描くうえで苦労したところはありますか?
本多:かつぢ先生はいろいろなデッサンをしていてあらゆるジャンルをこなしてきてだんだんここに凝縮されていってますが。たとえばピカソが若い頃はリアルな絵を描いていたけれどだんだん抽象画になったように、長い歴史があったと思うんですね。自分はそういうことをしないで最後のおいしいところだけやろうとするのでこれが難しかった。簡単に真似できないことがわかってキャラクターも3回くらいやり直して、だんだん目と鼻と口の黄金比率が理解できました。でもまだまだで比べてみると全然違うところがありますね
かつぢ先生のクルミちゃんも時代でキャラクターが変わっているんですよ。でもその都度、その都度可愛い。それが自分が描くと、髪の毛のバランスや後頭部の比率の問題とか手足の長さの問題とか非常に難しい。線や影がいっぱいだとごまかしがきくんですがそういうのができなくてシンプルゆえに難しい。
猫も、かつぢ先生の猫はシンプルすぎてそのまま描くと似ていないんですね。猫は猫背だろうと思うんですが背筋が伸びているので「えー」って思ったり(笑)そのまま描くと猫の演技ができないって、悩みがあったりしたんですが試行錯誤して、とりあえず描くしかないなとやっていましたね。
絵コンテはクラウドファンディングの前の4月にできあがって、これは1か月もあれば出来るだろうと思っていたんですがいやいや、大変で何度も描きなおして。一番大事なのはキャラクターですね。キャラクターで世界観が変わってしまいますし。
豊永:それと横顔が難しかったですね。最初に本多さんが絵コンテで横顔を描いたものだからそのシーンを外すわけにもいかなくて何回も何回も描きなおして。私がダメ出しすると本多さんが悲しそうな顔をするんですがでもここで妥協するわけにいかずやり直ししてもらいましたね。そしたらある日「黄金比率を発見した」って(笑)
眉と目と口のバランスの配置が違うと可愛くなってしまう、一見誰でも描けそうなんですが ちょっと1㎜でもずれると変な顔になってしまう、、そこがシンプルゆえに非常に難しい。私は描き手ではないんですがその難しさがわかるし、妥協したくないと思いました。
本多:あと自分が好きかどうかが上手に描けるかだよね、思い入れがあるとこだわるから。
――背景はモダンな雰囲気ですね。
本多:原作は昭和20年~30年頃の漫画なので家屋も本当だと和室と古い畳なんでしょうが、それだとちょっといまの世界観に合わないなと。キャラクターがモダンなので背景もモダンに無国籍っぽくしてもらいました。かつぢ先生の原作自体が日本のことを描いていながらどこの国の人が読んでも受け入れられるような感じががあるので 違和感なくいけたのかなと思います。
(クルミちゃんの家より。美術は「ふるさと再生 日本の昔ばなし」等の門野真理子さん)
―― 原作の4コマ2話分がアニメになりました。お話はどう作られたのですか?
幼児ものはキャラクターが基本ですが、でもクルミちゃんの世界観を共有してもらうにはお話も子供が興味を持つようにやらないといけない。お話っていっても特に話があるわけではないんですが、友達のところに遊びに行って誰もいないからアリや猫や雀を見て。原作には動物は出てこなかったんですが自分の肉付けですね、子供ってアリがどこにいくんだろうなって興味をもつじゃないですか、その好奇心に気づくのは大事ですよね。見ているうちに親子の関係を感じ取ってお母様にすり寄るっていう、それが大事かなって。
――クルミちゃんの魅力を聞かせてください
豊永:クルミちゃんは35年の連載のなかで大きくいえば前期、中期、後期と3つあるんですが、今回アニメは後期を取り上げています。アニメの動きとして表現しやすいのは実は後期ではないんですが、でもクルミちゃんの可愛さがぎゅーっと凝縮しているのは後期かなと。今のアニメーターさんが実際描けるかというと非常に苦戦する、深―い絵柄ですね、それが松本かつぢ先生の本領というか、だからなおさらやりたいと思いましたね。それとクルミちゃんの後頭部はぞわぞわするほど可愛い!です。
・連載初期・昭和13年の「くるくるクルミちゃん」(松本かつぢ) まだ等身が高い。
・昭和28年3月の「くるくるクルミちゃん」(松本かつぢ)
本多:今年亡くなった原節子さんは昭和の品の良い日本の女性を演じていましたが クルミちゃんはそういうのに近いのがあると思います。「ママ」じゃなくて「おかあさま」なんていいでしょう? やりとりが品がいいんです。そこは強調すべきだなと思いました。友達が悪いことをしたらコツンって頭を叩いたり乱暴なところもあるんですが、でも佇まいが品がいいんですね。作ったかつぢ先生の品の良さが出ているんだと思います。
自分なんかその品の良さを理解するだけでも大変です、父ちゃん、母ちゃん、おやじ、おふくろの世界だから「おかあさま」なんて言葉自体にあこがれちゃいますね。
原作には船の生活をしている子供がいるんですよ。お父さんが戦争に行って弟の面倒を見ていて学校に行けない子供がいる、その子にクルミちゃんはご飯を家から届けてあげたり面倒を見てあげたりするんですね。それは今のアニメでは描けないけれどもその「気持ち」は描けますね。かつぢ先生にはそういう差別がなかったからでしょうね。
昭和の時代の映画を見ると貧しくても品があって気持ちがいい、クルミちゃんも品の良さはキーワードですね。
――ぜひシリーズ化してほしいですね。
豊永:今回4コマ漫画2話分で一つのお話を作りましたので、いくらでもお話ができると思います。いまアニメはたくさんありますが、親子みんなで楽しめるアニメがすごく少ないと思うんですね、クルミちゃんはぜひ世界中の子どもたちに見ていただけたらと思います。
――今日はありがとうございました。
本多:ありがとうございます。
豊永:ありがとうございます。
2016年は松本かつぢ氏没後30年にあたる。クラウドファンディングで完成したパイロットDVDは支援者に贈られたほか、アニメーションシリーズ化や美術館等での展示等に向けてプロモーションDVDとして使われる。
初めてクルミちゃんが動き出すシーン。世界に向かって飛び立ちますように!
(C)松本かつぢアート・プロモーション/エクラアニマル
アニメーション「くるくるクルミちゃん」
制作:(株)エクラアニマル
演出・作画監督: 本多敏行
美術: 門野真理子
声の出演(クルミちゃん): 福原美波
声の出演(お母さま): 柳沢三千代
原作: 松本かつぢ
プロデューサー: 豊永ひとみ
【問合せ先】
・(株)エクラアニマル: http://www.anime.or.jp/
・ 松本かつぢ公式サイト: http://katsudi.com/
・ 参考:松本かつぢ「くるくるクルミちゃん」アニメーション制作プロジェクト (取材:Osawa)