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漫画家・巻来功士の心ぴく映画コラム-『黄金のアデーレ 名画の帰還』


「功士的、心ぴく(心臓がぴくぴくするほど感動した?)映画コラム番外編第37回」 は、実録映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』です。

つくづく、ヨーロッパは国の集合体であるが故に、映画は総じて多国籍にならざるを得ず、独りよがりの演出など出来ないのだな、と改めて実感することが出来ました。 異文化の日本人が難解だと感じる映画であっても、ある種の現実が誇張されて描かれているに過ぎないので、歴史をある程度知っていれば風刺や社会批判を感じる事が出来、理解出来るのでしょう(駄作は除きますが)。 であるからこそ、人間を描く時、ごまかしや、いい加減な描写は許されません。 あらゆる国の人々が観る事になるのですから。我が国の(テレビ的)映画のように、皆同じ考えを持っているから、ここで感動させればウケルなどという甘い幻想など、監督自身の首を絞める事になりかねません。 だから、人間ドラマは素の人格を描くしかないのです。黒澤、小津、岡本、今村、増村、市川、深作、大島、他の日本映画の名監督がやってきたように。 ましてこの映画のように実話になると尚更です。人間を丸ごと描かなければなりません。アニメのようなキャラ付けは出来ないのです。

主人公は1998年の現在、ロサンゼルスで小さなブティックを経営するマリア(実際のマリアはこの時82歳)。ナチスドイツに併合されるまでオーストリア国籍のユダヤ人でした。家は裕福で、画家のクリムトやフロイト博士等が出入りするほど。叔母のアデーレをクリムトに描いてもらった絵画は、ナチスに没収され、両親を残し、夫と共に命懸けで、アメリカに脱出します。50年後、その絵を所蔵しているオーストリア政府を相手に返還要求をするのです。同じユダヤ人で、ホロコーストで祖父母を殺された経験を持つ若きアメリカ人弁護士と共に。

『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』グスタフ・クリムト(1907年)

主人公のマリアを演じるアカデミー賞女優のヘレン・ミレンが本当に素晴らしい。当時オーストリアの宝と言われていた名画を、正当な持ち主の私・個人に返してほしいと国を訴える。それはまっとうな権利を守る正義の為なのか?個人的意地の為なのか?はたまた100億ドルといわれる名画の価値がそうさせたのか?それは、故国オーストリアで受けた喜びと悲しみを回想するマリアの行動が全てを語ってくれます(当然、セリフで説明するなどD級映画の演出など皆無です)。それは、正義の為でもあるし、意地の為でもあるし、名画の価値の為でもあると、その答えの出ない人間のサガが浮き出る演技・演出は圧巻です。ラストでは、私の感情を揺さぶるツボが用意されていて、ボロボロ泣いてしまいました(名作「プレイス・インザ・ハート」のラストのような・・)。

今年は、ヨーロッパの第2次大戦戦、前・後を検証する実話に元付いた傑作映画の当たり年でした。当然、この作品も心震わせる傑作です。 真摯に過去に向き合う勇気が生み出した傑作達、邦画には全く見られなくなった分野です。残念でたまりません。是非、この映画を見て底なしの人間のパワーを感じてください。個人の力が成し遂げられる事は沢山あるということを。それを少しでも感じる事が出来れば、閉塞感をぶち破り僅かでも前進できると思います。そんな感動的傑作実録映画です。心ぴく度90点以上、超お薦めの作品です。

【STORY】

マリア・アルトマン、82歳。アメリカに暮らす彼女がオーストリア“政府”を訴えた。それは“オーストリアのモナリザ”と称されるクリムトの名画を「私に返してください」という驚きの要求だった。

クリムトが描いた、黄金に輝く伯母・アデーレの肖像画は、第二次世界大戦中、ナチスに奪われたもので、正当な持ち主である自分のもとに返して欲しいというのが、彼女の主張だった。

大切なものすべてを奪われたマリアが、名画よりも本当に取り戻したかったものとは──? 

最後に明かされる真実が、前へと進む力をくれる希望と感動の実話。

【STAFF】

監督:サイモン・カーティス 『マリリン 7日間の恋』 出演:ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール 撮影監督:ロス・エメリー 脚本:アレクシ・ケイ・キャンベル 上映時間:109分 製作国:アメリカ、イギリス 配給会社:ギャガ ©THE WEINSTEIN COMPANY / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ORIGIN PICTURES (WOMAN IN GOLD) LIMITED 2015

【巻来功士】 1958年長崎県佐世保市生まれ。1981年、「少年キング」誌で『ジローハリケーン』でデビュー。 「週刊少年ジャンプ」に発表の舞台を移し、代表作『ゴッドサイダー』を執筆。その後、青年誌を中心に『ザ・グリーンアイズ』『瑠璃子女王の華麗なる日々』『ゴッドサイダーサーガ神魔三国志』など数々の作品を連載。 クラウドファウンディング「FUNDIY」にて『ゴッドサイダー・ニューワールド(新世界)〜 ベルゼバブの憂鬱 〜』の制作 プロジェクトを成功させ現在鋭意執筆中。2016年2月6日、最新単行本・自伝『連載終了!』(イーストプレス刊)発売決定。

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