【レポート】東京国際映画祭「野火」塚本晋也監督の20年越しの思い
10月27日新宿ピカデリーで「野火」が上映され、塚本晋也監督のトークイベントが行われた。
戦争文学の金字塔として称される大岡昇平の同名の映画を塚本晋也監督が20年の構想を経て映画化、自ら田村一等兵を演じる。「日本にとって大切な一本、見なくてはいけない作品」として 第28回東京国際映画祭 Japan now 部門にセレクトされた。
製作にあたって苦労した点を聞かれた塚本監督は「すべて苦労した」としたうえで、
「最初は高校生のとき原作を読んでいつか映画化しようと思った。30歳を過ぎた辺りから企画書を書いて準備したのですが当初はお金がなくてできなかった」と振り返る。それが「昨今の風潮で、こういう映画を作るのは不謹慎という流れになり、これ以上延ばすともっと作りづらくなる、見てくれる人もいなくなる」という強い危機感を感じて3年前に資金が集まらないまま自主制作に踏み切った。被害者としての戦争、ではなく戦場で自分が加害者となることの恐ろしさを描いていく。
(C) SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
結果的に熱意のあるスタッフが集まり、異常なパワーで作品ができあがった。資金がないことを言い訳にしたくない、ここだけは外せない、と思っていたフィリピンロケも実現した。
フィリピン島の美しい自然が印象に残る。
「被害者も加害者もなくみんな普通の人として描きました、悪いのは不条理な世界でありそれがなければ美しい世界で違った時間を過ごせたはず」 圧倒的に美しい大自然の中で人間だけがドロドロになって不条理な戦いをしている、そのコントラストは映画化を考えた20年前から塚本監督の頭の中にくっきりと描かれていたものだった。
フィリピン戦を体験した元日本兵にインタビュ―を繰り返した。「『黒い雨」のような被害者側からの戦争映画はあっても、戦争加害者は話すべきことではないとして口を閉ざしたまま亡くなってしまう。閉ざした口をむりやりあけることはできないから一つの真実として映画を作った。(人が人の)加害者であったという事実をなくしてはならない」と思いを語った。
東京国際映画祭アドバイザー安藤紘平(左)、塚本晋也監督(中央)、森優作さん(右)
7月25日に劇場公開された本作は60館以上で上映され オーストラリアやフランスの映画祭でも上映が予定されているという。舞台挨拶後の塚本監督と少年兵・永松役の森優作さんのサイン会には長蛇の列ができ幅広い層からの関心の高さを感じた。
塚本監督とオーディションで選ばれた森優作さん(永松役)
「野火」公式サイト http://nobi-movie.com/
(取材・撮影/ Osawa)