【レポート】東京国際映画祭「ジョーのあした ー辰吉丈一郎との20年ー」 レッドカーペットから舞台挨拶まで
阪本順治監督(左)、辰吉丈一郎選手(中央)、辰吉るみ夫人(右)
10月22日(木)に開催された第28回東京国際映画祭のレッドカーペットの階段をプロボクサーの辰吉丈一郎選手が下りてきたときに一瞬空気がピリッと緊張した。辰吉選手がメインステージに向かうや会場から「たつよし!たつよし!」と大きな辰吉コールがおこった。
ボクシングファンならずとも人を魅了するカリスマ性に惹かれ、急遽翌日の舞台挨拶にも参加することにした。以下、TOHOシネマズ六本木ヒルズでの舞台挨拶の一問一答をレポート。
レッドカーペットから一夜明けた10月23日(金)、東京国際映画祭ワールド・プレミア作品 「ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年」の上映が終了すると、満席の開場からは大きな拍手が起こり、リング入場曲「死亡遊戯」とともに辰吉選手が登壇するとまたも大きな辰吉コールが起こった。
【引退しないので20年撮り続けた】
―今日はリングの上でなく映画館の前でお客様に見ていただきましたがどういうお気持ちですか。
辰吉丈一郎選手(以下「辰吉」):こんにちは。ぼくは俳優でもなんでもなくボクサーなのでドキドキしています。
阪本順治監督(以下「阪本」):ボクサーのドキュメンタリーにもかかわらず、試合の映像がないわけですけれども、彼の発言の重みを大事にすると逆にそういう動的なものは必要ないと思ってあえて入れませんでした。彼の発言、あるいは彼の20年間の顔の変化も含めて、この映画の魅力として持ち帰っていただければありがたいです。
―作品が終わったときに大きな拍手が起こりましたが、今みなさんに見ていただいてどういうお気持ちですか?
阪本:辰吉くんファンのかた、あるいはボクシングのファンのかた、あるいは1本の映画として見に来られたかた、それぞれとらえ方は違うと思うんですけれども拍手をいただきありがとうございます。それ以前に辰吉くんがこの映画を見た直後の感想は「俺が終わってないのになんで映画が先に終わるんだ」という感想でした。
―作品をご覧になられてご自身の20年を振り返っていかがですか? 辰吉:よく撮ったなーっていうことくらいしかないですね、感心します。
―20年という長い期間ですがどういうことを意識しながら撮られていたんですか? 阪本:1995年のラスベガスから撮り始めたんですけど引退したら発表しようと。失礼ですけれど4年、5年後に作品として仕上げようというくらいの。ですが、なんでか引退されないのでずーっと撮り続けまして(笑)。20年という区切りと次男の寿以輝くんがプロデビューするのをきっかけに撮りためた膨大なフィルムを一回まとめてみようと思いました。辰吉くんには「『ジョーのあさって』はいつ撮るんだ」 と言われています。
【この人に興味があって真ん中にカメラがあるだけ】 ―辰吉さんに多くの質問をされたと思いますが、印象に残っている質問はありますか?
辰吉:印象に残っている、というのはあるんでしょうけれど覚えてないので、たぶん「ない」でしょう(笑) ―本当に膨大なフィルムがあったと思うんですがこれを1時間20分位におさめるためにどれを使ってどれを使わないという取捨選択の軸になったものはありますか?
阪本:端的にいうと一人の男の引き際ということでまとめました。しつこく引退のことばかり聞いた部分をチョイスした。そのほかにボクシングの技術についての質問も多々やっているんですけれども、リングを降りるときがどういうときなんだという質問を中心に編集しましたね。
―辰吉選手は「これは答えたくないな」とかありました? 辰吉:特に無かったです。
―監督はこれは聞きにくいということはなかったですか?
阪本:うーん、ドキュメンタリーを作るという意識より僕がこの人に興味があって真ん中にカメラがあるだけ。だからカメラはあまり意識させないでいかに本音が聞けるかということでした。これ以上聞くとパンチが飛んでくるな、ということはなかったです。
―この20年間、監督と辰吉選手の関係も変化してきたのではと推測するのですがお互いはどういう関係ですか?
辰吉:いい関係ですよ。いい関係ではありますけど友達ではない(笑)
阪本:友達ではないわね。俺のが一回り上なんですけど、東京にいると監督、監督といわれて神輿かついでもらってはいるんですけれど、辰吉君の前にいくと素の自分に戻れるというか。公には「監督」って言ってくれますけど普段は「さかP」あるいは、「さか」もなく「P(ぴー)」って言われてますから(笑)。そういう関係です。
―本作は来年2月公開を予定していますが最後にご挨拶を一言。 辰吉:何をしゃべっていいかわかりませんから。ありがとうございました。 阪本:ありがとうございます、ときどき皆さんもその時の自分の心境を習字にたとえてみてください。(※注:映画のなかで「習字」にたとえるのがキーポイントになっている)
辰吉選手が退場するときにも大きな拍手と辰吉コールがおこった。東京国際映画祭の中でも間違いなく 最も熱気のある会場の一つだっただろう。映画の公開は来年2月、ぜひ「ジョーのあさって」の撮影にも期待したい。 ※辰吉丈一郎(正確には「丈」は右上に点、「吉」は「土」の下に「口」になります)
【ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年】(201年2月公開予定)
作品解説: 波乱万丈の天才ボクサー、辰吉丈一郎。ボクシング映画「どついたるねん」(89)でデビューした阪本順治監督が、ひとりのスターに20年間にもわたってインタビューし続けた、世界映画史的に珍しい記録。網膜剥離で国内のリングから去り、一度は引退し、三度の世界チャンピオンに輝いた不屈のボクシング人生を、次男・寿以輝がプロテストに合格した2014年11月まで、カメラはかつて誰も見たことのない辰吉丈一郎の「真実の姿」を映し出す。44歳いまだ引退宣言せず、現役であり続ける姿からあぶりだされるのは。ナレーションは豊川悦司。
第 28 回東京国際映画祭
(執筆・撮影/Osawa)