【レポート】東京国際映画祭「ガンダムとその世界」富野由悠季×落合陽一トークイベント
富野由悠季氏(左)、落合陽一氏(中央)、小形尚弘氏(右)
10月23日(金)新宿ピカデリーにて、第28回東京国際映画祭特集上映「ガンダムとその世界」のトークショーが開催。ゲストとして総監督・富野由悠季氏と筑波大助教授・落合陽一氏、「ガンダム G のレコンギスタ」プロデューサー小形尚弘氏が登壇した。
落合氏はメディアアーティストとして、超音波によって様々なものを空中に浮かべ三次元的に動かす研究や、空中に触れる光をレンダリングする"Fairy Lights in Femtoseconds"等を発表している。
子供時代にガンダムを見て以降大ファンという落合氏とガンダムの生みの親である富野氏の異色対談が始まった。
ーアニメとデジタルの融合
富野:本日、東京国際映画祭に絶対呼んではいけないというゲストを呼んでしまいました。落合先生は、すごく簡単に言うと"映像の時代は終わったんだよ"という事を言ってしまう人です。 落合先生の研究は最新のデジタル技術を扱っていて一見映像とは関係ないように見えますがそうではなく、見えるものをどう表現するかという事と繋がっていて、このジャンルではおそらく日本では第一人者の方です。そして有難いことにガンダムファンでもあります。
落合:はい、ガンダムの事が好きですね。僕は1987年生まれなので、一番最初に見たのがVガンダムでした。
小形:コンピューターとアニメの繋がりという事で言うと、例えばディズニーの作品なんかはCGを多用してますし、宮崎駿さんも今度短編でCG作品のアニメを発表するという話しもありますね。そんな中でGのレコンギスタは未だ手描きのア二メーション表現にこだわっているというのはどういう意図があるのでしょうか?
富野:しょうがないからやっているという捨て台詞もありますが、偉そうなことを言うと、20世紀の遺産になるような作品は作っておきたいなという事で、Gレコではそれをやってみせるぞといういきがりはあります。
落合:映像というのはアートとしては存在しているわけで、僕はデジタルアーティストとして研究や活動をしていますが、手描きのアニメ―ションも好きなんですよ。世の中が全てCG作品になる中で手描き作品を発表するというのはパンクじゃないですか。初代ガンダムなんかはロボットの動きとしてグッとくるものがありますね。手描きならではの歪んでる感じが凄く良いです。
富野:ここ一年くらい我々の周囲からもそういう声が出始めました。手描きアニメの方がリアルに見えるという意見です。Gレコでの作品表現も手描きアニメーションを1ジャンルとして残しておきたいという観点から見れば間違いではないのかなと思います。
小形:これからCGが発達していけば手描きアニメの持つ要素をコンピューターが代替するようになるのでしょうか?
落合:2030年くらいになればそう言った事も可能になると思うのですが、富野さんには今そういったアナログな作品を作っておいていただかないと、我々は今後何をコンピューターでサンプリングしたら良いかわからないので、それは重要なパラダイムです。
富野:なるほど、何をサンプリングするかですか。
落合:コンピューターで代替する場合も何を基準に代替するかというのは、先人の残してくれた遺産を見ないといけないので。
ーGレコに隠された次世代へのメッセージ
富野: 初代ガンダムを作って以降コンピューター技術がとんでもなく発達したにもかかわらず、ガンダムの世界観が未だにゆるぎないのはミノフスキー粒子という設定のおかげですね。何故ミノフスキー粒子を発明したかというと、工学とは関係なく、映画を作るために考えたんです。作品としてのドラマ(劇)を作るために宇宙で取っ組み合いをするにはどうしたら良いかを基準に考えました。そのおかげで未だに劇が出来る、もっと優しく言うと愛憎劇が出来る。愛し合うためには手の届くところで抱き合わなくちゃ駄目なんだよっていう原則をゆるがせに出来ないという事を考えると、15年ぶりにGレコを作ってみて改めて秀逸な設定だなと感動しました。
落合:コンピューターは実際にX線に弱いですしね。電波遮断された中での取っ組み合い、肉弾線という設定はありえると思います。
富野:Gレコの中にも"キャピタル・タワー"という設定が出てきますが、純粋に絵的に作りたかったという部分もあるのですが、同時にエネルギー論の事も考えました。ああいう規模の物を動かすときに今のクリーンエネルギーなどの人工的なものでは賄えないと思ったので、本当に知恵を絞って考えました。雷を使って地球そのものがバッテリ―かもしれないという想定でその電力を作り上げるという技術が確立しているだろうという設定で、そのくらいでないとGレコの世界のキャピタル・タワーは成立しないと考えました。アニメの中の設定という要素だけではなく、そのことを科学や宇宙工学を含めて今から50年若い世代の人に考えてもらいたいという思いを含めてGレコを作りました。その意図は今初めて人前で語りましたね。
落合:確かに14才の時に何を見たかということでその後の人生は変わってしまう事もありますね。僕は14才の時にΖガンダムを観て以来、人類を革新するかに燃えてコンピューターをガリガリやり始めました。今の14才が将来クリーンエネルギーやテクノロジーを担うかもしれないですね。
富野:子供達に将来の種作りをしたいと思ってGレコを作りました。今はただのロボットアニメだと思って観てくれたら良いので、もっと楽しい作品にするためにお爺ちゃんは今作品を作っています(笑)。
東京国際映画祭「ガンダムとその世界」トークショー第二弾は安彦良和氏と田中真弓さんが登壇予定。こちらも是非お見逃しなく。
第 28 回東京国際映画祭 ◆10 月 25 日(日)「機動戦士ガンダム THE ORINGIN Ⅰ 青い瞳のキャスバル」上映回 会場:新宿ピカデリー <登壇者>安彦良和(総監督)、田中真弓(キャスバル・レム・ダイクン役の声優)
公式サイト:http://www.tiff-jp.net チケット発売 :10 月10 日(土)より ticket board にて発売中
(執筆・撮影/木瀬谷)