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漫画家・巻来功士の心ぴく映画コラムー『ドローン・オブ・ウォー』


『ゴッドサイダー』『メタルK』などのヒット作の作者であり、映画好きとしても知られる漫画家・巻来功士が最新の映画を観賞し、心臓がピクピクするほど感動及び興奮した作品”心ぴく映画”を紹介するのが 『功士的、心ぴく(心臓がぴくぴくするほど感動した?)映画コラム』です。 今回巻来先生にご紹介いただくのは『ドローン・オブ・ウォー』。

【作品概要】

アメリカ空軍のパイロットであるトミー・イーガン少佐の赴任地はアジアでも中東でもない。ラスベガスの空軍基地に設置されたコンテナ内でドローンを遠隔操作し、1 万キロ余りも離れた異国でのミッションを遂行している。

エアコンが効いたオペレーションルームで 1日の任務を終えると、ラスベガス郊外の整然と区画された住宅街のマイホームへ帰り、美しい妻モリーとふたりの幼い子供との生活に舞い戻るのが日常だった。しかし圧倒的な破壊力を誇るミサイルをモニターに映った標的にクリックひとつで発射する現在の職務に、まるでゲームのように現実感が欠落して違和感を覚えていた。

CIA の対テロ特殊作戦に参加したトミーは、度重なる過酷なミッションにじわじわと精神を蝕まれ、連日の激務に神経をすり減らし夫婦仲にも冷たい空気が流れていた。ある日、新人の女性空兵スアレスがチームに配属されトミーの相棒としてミサイル誘導レーザーの照射をすることになったが、現実感の無い任務の恐ろしさと虚しさを痛感することになる。あるターゲットへ向けたミサイルの発射から着弾までの 7 秒のタイムラグの間に、爆撃地点にさまよい込んできた子供たちが巻き添えになってしまったのだ。発射スイッチを押したトミーはやるせない罪悪感に打ちのめされる・・・。やがてストレスが限界を超えたトミーは、冷徹な指揮官からの人命を軽んじた爆撃指令への反抗を決意する。

昨今、あらゆるメディアを賑わせている無線操作によって飛行する無人機“ドローン”。災害発生地での現状調査、荷物の配送、個人の趣味から商業レベルでの動画撮影といった多様な用途が想定されるドローンは、近い将来に莫大な経済効果をもたらすと見込まれる一方で、ホワイトハウスの敷地や日本の首相官邸屋上での落下事件は米軍無人戦闘機ドローンの恐るべき実態と9.11 以降の対テロ戦争の知られざる真実を暴く問題作。

「功士的、心ぴく(心臓がぴくぴくするほど感動した?)映画コラム番外編第28回」は 実話を基に描かれた戦争映画『ドローン・オブ・ウォー』です(原題「グッド・キル」)。 2010年に盛んに行われたドローン無人攻撃機<プレデター>によるアルカイダ・ハマス殲滅作戦を描いた映画です。

ラスベガスにほど近い空軍基地。そのエアコンが効いた作戦室のコンテナから、1万2千キロ離れたアフガニスタンのゲリラ達を、まるでテレビゲームのように爆殺する光景が淡々と続きます。安全な場所にいて、毎日、ゲリラや、時にはまちがえ、時には確信犯的に民間人をも何十人と殺し続ける米兵達。徐々に精神が疲弊して行くのは当然の事でしょう。主人公は実戦経験がある空軍少佐トミー(イーサン・ホーク)。再び戦闘機に乗りたい彼は、自らを卑怯者と罵りながらも、このグッド・キル(正しい殺人)と呼ばれるドローン攻撃を任務とし、毎日時間通りに、美しい妻と幼い2人の子供がいる小綺麗な家からラスベガスを突っ切り、基地まで赴き淡々と人を殺し、まるでタイムスケジュールを押すように家庭に戻る。その繰り返し。やっている行為と、日常とのギャップのあまりの大きさ。その異常さを自然体で演じていて、内面に膨らんでゆくどす黒い物まで感じさせてくれます。もはや、これから起こりえる戦争が正義の側・悪と側と色分けされるなどと本気で論じる事がどれだけ幼稚な事か、その素晴らしい演技で観客全てに知らしめてくれるのです。

いくらグッド・キルという正しい(?)戦争に参加した人でも、その全てがなんらかのPTSDを発症すると聞きます。良心を持つ人間なら当然のことでしょう。それほど戦争が非人間的行為だとこの映画は告発しています。とにかく色々な事を考えさせてくれる戦争映画の傑作です。アンドリュー・二コル監督(「ダカタ」)は、ニコラス・ケイジがまるでセールスマンのような武器商人を演じた「ロード・オブ・ウォー」でも素晴らしい切り口を見せましたが、今回もその鋭さは健在です。今こそ、考える事を拒否し、論理を否定し、この国の根幹たる民主主義のなんたるかを知らず、アニメやネットで得た情報だけを鵜呑みにし、集団的自衛権と個別的自衛権の違いも分からず、自分が決して戦地には行かない為政者になったような妄想に囚われ、情緒的に戦争を論じてしまう我々日本人が観ておかなくてはならない傑作だと思います。戦争とは、テレビゲームやアニメじゃなく、人を殺すものだと言う事をこの映画は教えてくれます。功士的心ぴく度90点、新しい戦争映画の傑作が誕生しました。是非、ご覧ください。超お薦め作です。

【 作 品 情 報 】 タ イ ト ル : 『ドローン・オブ・ウォー』 原題: GOOD KILL 監督/製作/脚本 : アンドリュー・ニコル(『ガタカ』『TIME/タイム』) 製 作 : ニコラス・シャルティエ(『ハート・ロッカー』) 出 演 : イーサン・ホーク、ブルース・グリーンウッド、ゾーイ・クラヴィッツ、ジェイク・アベル、ジャニュアリー・ジョーンズ 製 作 年 : 2014 年 製 作 国 : アメリカ 上 映 時 間 : 104 分 U R L : http://www.drone-of-war.com/

【巻来功士】 1958年長崎県佐世保市生まれ。1981年、「少年キング」誌で『ジローハリケーン』でデビュー。 「週刊少年ジャンプ」に発表の舞台を移し、代表作『ゴッドサイダー』を執筆。その後、青年誌を中心に『ザ・グリーンアイズ』『瑠璃子女王の華麗なる日々』『ゴッドサイダーサーガ神魔三国志』など数々の作品を連載。 クラウドファウンディング「FUNDIY」にて『ゴッドサイダー・ニューワールド(新世界)〜 ベルゼバブの憂鬱 〜』の制作 プロジェクトを成功させ現在鋭意執筆中。 TWITTER @godsider1

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