宮西達也ワンダーランド展 ヘンテコリンな絵本の仲間たち スペシャル対談
- chatterboxzine
- 2015年9月17日
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世田谷文学館 展示室入口
宮西達也、真珠まりこの”これまで”と”これから” ~絵本創作を通じて語る過去、現在、未来~
2015年9月6日。小雨の降る世田谷文学館にて『ティラノサウルスシリーズ』(ポプラ社)、『おとうさんはウルトラマンシリーズ』(学研教育出版)の絵本作家、宮西達也の展覧会【宮西達也ワンダーランド展 ヘンテコリンな絵本の仲間たち】の特別企画「宮西達也、真珠まりこ スペシャル対談」が開催された。 デビューから30年余りのキャリアを積む宮西達也先生と、『もったいないばあさんシリーズ』(講談社)で知られる絵本作家、真珠まりこ先生の、お互いの”これまで”と”これから”を大いに語ってもらうというテーマのもと、両作家の過去、現在、未来が、満席となった100名以上のファンの前で赤裸々に披露された。 子供から大人まで、愛されて止まない、両作家の葛藤と創作の秘密とは?

真珠まりこさん(左)と宮西達也さん(右)
【絵本、どうやって作る?】
対談は、真珠先生の『おべんとうバス』と宮西先生の『はらぺこヘビくん』の、作者自らによる読み聞かせからスタートした。
宮西:まりこさんの作品『おべんとうバス』と、僕の作品『はらぺこへびくん』には共通点があって、どちらも”食べる”というストーリー展開を”くりかえす”ことなんです。 僕、くりかえす展開が好きなんです。”くりかえす”って絵本ならではのもので、ページをめくって、「次は誰が出てくるんだな」って、その構図がわかってくるのがすごく楽しいんですね。まりこさんの『ぽんぽん』って作品も”くりかえす”んですが、リズムがあってすごく楽しい。 まりこさんは絵本をどういうふうに作るの?
真珠:『おべんとうバス』は0~1,2才児向けの絵本を作ろうと出版社へ持ち込みをしたんですが、最初『おべんとうようちえん』だったものを、編集さんらから「もう少し考え直してください」と言われ、バスとお弁当を繋げたらいいかなと思いつきました。
宮西:編集さんとどんな打ち合わせをしますか?
真珠:要望を聞かれたり、テーマを指定されたり、ですね。でも、そのとき作りたいものを作るのが一番だと思います。
宮西:僕は編集さんに依頼されて打ち合わせをするとき、ほとんど絵本の話をせず雑談ばっかりするんです。すると、その人がどういう人間で、どんな傾向の絵本を作りたいかわかってくる。嬉しいこと、感動すること、楽しいことって何かな? というのが見えてきます。 まりこさん、今までに何冊描いてるんですか?
真珠:私、前から思っていたんですが男の作家さんには「何冊出したの?」ってよく聞かれるんですね。でも女の作家さんからは聞かれたことがない。それは男と女の違いなのかな? (会場を見渡して)わかります? この違いの感じって。
<会場、「あぁー」と、頷く声>
宮西:(会場を見渡して)うそ!? わかるの!?(笑)
真珠:わかりますよねー?(笑)

宮西:(逃げるように)まりこさんといえば、『もったいないばあさん』ですが、次は『もったいないばあさん』を朗読してみましょう。
(朗読を終えて)
”もったいない”は、世界の共通語?
真珠:ノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイさんが、ご自身の推奨する3R運動を一言で言うと「MOTTAINAI」だとおっしゃって、国連でも発信して話題になったことがあります。 『もったいないばあさん』を作ったときは、”もったいない”の意味を子供に聞かれて一言で言えなかったから絵本にしたんですけど、連載するうちに色んな”もったいない”の話が必要だなって深く考えるようになりました。”もったいない”って、もともと仏教の言葉で、仏教には全てのものが仏になる、すべてのものには命があって、命あるものを粗末にしてはいけないという意味だと知って、深い言葉だなと。 命の大切さを伝える ”もったいない”のメッセージともったいないばあさんをガイド役に、『もったいないばあさんのワールドレポート展』を開催しています。「いま地球上で起きている問題はすべて、命を一番に考えていれば起きなかった」と考えて、世界の問題と私たちの暮らしがどうつながっているのかを伝える展示会です。
宮西:インターネットでも、まりこさんのワールドレポート展をよく見ます。 『もったいないばあさん』は地球規模ですが、僕は自分が育った静岡県駿東郡清水町から、ゆるキャラの製作依頼を受けて『ゆうすいくん』という絵本を作りました。まりこさんは世界レベルですが、ぼくは町民レベルです(笑)。
真珠:いや、清水町ではみんなが知ってる名士ですよね?(笑)
宮西:会場に集まってる皆さんは清水町がどこにあるかも知らないんだよ?(笑)
<会場、爆笑>

宮西達也さん
【どうやって絵本作家になったの?】
真珠:宮西さんは、どうやって絵本作家になったんですか?
宮西:僕は大学卒業後、グラフィックデザイナーの仕事に就いていたんですが、絵が描きたくてデザイナーを辞めてしまったんです。それからアルバイトをしながら広告代理店に絵を持ち込んでいたんですが、大学時代に一度だけ絵本のアシスタントをしたのを思い出して、「絵本って、絵がいっぱい描けるな」と思って絵本を描いて持ち込み始めました。 一社一社回って、ほとんど断られました。どこに行っても「帰れ!」、「絵本になってない!」って、原画を投げつけられましたよ。
真珠:え――!? それはすごく傷つきますよね!?
宮西:いや、傷つくどころか、泣いてましたよ。家に帰ろうと山手線に乗っているなかで、幸せそうなカップルの前で「くぅ~!」って。 そのうちにようやく出版されるようになりましたが、新人の描いた本なんて売れるわけなくて。でも、『おっぱい』という作品を、ある評論家の先生に取り上げていただいて……、
<会場から「ああ~!」と頷く声>
『おっぱい』だったんですよ、僕を救ってくれたのは(笑)。 評論家の先生が、講演先で「『おっぱい』、いいよ」って薦めてくれたおかげで『おっぱい』が売れて、僕にも『おっぱい』を解説する講演依頼がきたり(笑)。
真珠:『おっぱい』の講演、聞いてみたかったですね(笑)。

会場に展示されている『おっぱい』の原画 (C)
宮西達也
宮西:そうやってるうちに、編集さんから依頼がきて、書店さんも置いてくれるようになって。 最初は本屋の棚に一冊だけ挿してあるだけだったのが平積みになって。それでも売れないと本がどかされちゃうので、僕、本屋でまりこさんの本の上に自分の本を載せてるの(笑)。
真珠:私も今度からそうします(笑)。
宮西:あのとき「帰れ!」と言った編集さんには本当に感謝してます。あの時くじけて「やめちゃおうかな」じゃなくて、「なにくそ! そのうちきっとわかってくれる!」と、やってこれたのは、あのときの編集さんのおかげです。
真珠:私は結婚してからデザイン専門学校の絵本科に入学したのがきっかけなんです。 この先、自分がどうやって生きていくかというのを大学卒業後に何も考えてなくて、「自分にはこれがある」というのが欲しいと思っていたんです。今後、全国のどこで生活していくかわからなかったから自宅でできる仕事がいいとぼんやり考えていたら、偶然イラストレーターの友達と再会して、絵を仕事にする道があると気付きながら歩いていたら、デザイン専門学校の看板に「絵本科」を見つけたんですよ。
宮西:話、作ってませんか?(笑)
真珠:作ってません(笑)。 面白そうだなと思って、自分で払える学費だったので申し込みました。 うちの実家の家族は、私以外全員お医者さんで、私も医者になるか医者と結婚するかと言われて育ちました。でも私、血が苦手で魚もおろせないし、お医者さんなんて無理だと。 デザイン専門学校を卒業後、広告関係のイラストレーターとして仕事をしていましたが、夫の転勤でアメリカへ行くことになりました。仕事をするビザがなかったので絵本の学校に通い始めたんですが、その時に作った『A Pumpkin Story(かぼちゃものがたり)』という絵本がデビュー作になったんです。
<会場、「お――!!」と驚きの声>
宮西:僕が日本で原画を投げつけられてたころ、アメリカで「お――!!」だったんだ(笑)。 『かぼちゃものがたり』はアメリカの出版社に持ち込みしたんですか?
真珠:コピーしたものをいくつかの出版社に送っていました。いいお返事がもらえないうちに日本に帰ることになって落ち込んでいたんですが、帰国後、最後に送ったアメリカの出版社から「この条件でよかったら出版します」とお返事をいただいて、98年に出版されました。 その後、子供が生まれてしばらく仕事をしていなかったのですが、子供が4歳のときに『もったないばあさん』のアイディアが浮かび、『もったいないばあさん』と『おべんとうバス』が同時に出版されました。2冊とも、自分の子供に向けて描きました。
宮西:僕は自分の子供のために作ったのは『おっぱい』ぐらいです。
真珠:え――!?
宮西:自分が感じたことや、自分が子供時代に感じたことを描いてます。『おとうさんはウルトラマン』のおとうさんは僕のお父さんで、子供が僕なんです。
真珠:すごい感性だと思います。子供の自分をずっと保ち続けて、子供の宮西さんがいつもいるなんて。
宮西:褒められたんだかなんだかわかりませんが嬉しいです!(笑)

『どうしたのぶたくん』宮西達也 1987年 (C)宮西達也
【どうして、絵本作家になれたの?】
宮西:僕は子供の時から絵を描く仕事に就きたいと思ってたので夢を掴めたと思ってますが、まりこさんは絵本作家が夢だったんでしょうか?
真珠:うーん、もともとはそうじゃなかったんですけど、いま自分が思うのは、自分が思っていることを表現するのに絵本はすごく、ぴったりだと。
宮西:僕もそうです。人間って、みんな自分を表現したいと思ってるんです。学校の先生も、お医者さんも。 子供に「夢を掴むにはどうしたらいいの?」と聞かれたら、なんて話しますか?
真珠:諦めないこと、だと思います。その人が、その人らしく生きていくための種を、みんな持っていると思うんですけど、親に「勉強しなさい」と言われたり、自分で「友達のほうがうまいから」と諦めてしまったら、大人になったときなにをやったらいいかわからなくなる。 へたでも、お金にならなくても、その人らしく生きていけるものがあればいいと思うので、それを手放さずに続けてほしいです。
宮西:僕も講演会で必ず言うのは「一生懸命、生きてください」、です。一生懸命やって、諦めないでほしい。こうなりたいと思って努力したら必ず叶うと思う。 ここにいる良い子の子供達も、人の2倍、3倍じゃなく、4倍、5倍頑張れば、宮西さんや真珠まりこさんに、なれるんだよ!
<会場から「はぁーい!」という子供の声が響き、会場から拍手)
宮西:ありがとう! あの子はサクラじゃないよね?(笑)
真珠:あの……、原稿を投げられて「帰れ!」って言われちゃったら、私なら諦めちゃうかも……。 「なにくそ! そのうちきっとわかってくれる!」と思ったのって、何がもとで、そう思えたんですか?
宮西:いや、あのときはギリギリの底辺だったので……。仕事も辞めてしまってお金も入ってこないし、自分ができるものは絵しかないと思ってたので。それに好きだし、やり続けることができるだろうと思って。諦めていたら、いまここにいませんからね。諦めないことから全部始まっていて、いまの僕がいるんだなって。

『にゃーご』宮西達也 1988年 (C)宮西達也
真珠:いまもそうですが、私は自分に自信がなくて。医者になった姉や弟と比べると、勉強もせず、いつも漫画を読んでいるか手紙を書いているといわれて、自分は出来損ないなのかもとコンプレックスを感じていました。宮西さんは、コンプレックスは?
宮西:コンプレックスだらけですよ。僕にも弟がいますが、弟よりも全然”できなかった”です。 いまも自信があるかって言われたら、ないですよ。自分よりも上手い絵を見ると「いいなぁ!」と思います。「『もったいないばあさん』や『おべんとうバス』を、なんで僕が先に描かなかったんだ!」って(笑)。 僕は「俺の方がすごいぞ」と思ってやってるんじゃなく、諦めずに一生懸命やってるだけ。「一生懸命やったのが本になって嬉しいな!」って、それだけなんです。ただ一生懸命やることでテンションを保っているんだと思う。僕から一生懸命さを抜いたらなにもないですよ。本当になんにもない。 僕、来年、還暦で、見た目は若いんですけどもう身体がボロボロなんです。一昨日も、倒れてしまって。でも、今日はまりこさんと、会場に集まってる皆さんと、取材に入っているテレビ局のために来ました(笑)。

『どうしたのブタくん』宮西達也 2013年 (C)宮西達也

人気キャラクターが登場するジオラマ展示
【これから、どうやって絵本描く?】
宮西:これからの話をしたいのですが、これからの真珠まりこはどうしたいですか?
真珠:あの、まだ達成してないこともあるんですけど、やりたいことって、ボヤ~、と、いっぱいあって……。言ってしまうと薄まってしまう気がして。
宮西:秘密にしておきたい?
真珠:人の心が温かくなる作品を作りたい、っていうのはずっと前から変わらない目標なので人前で言えるんですけど、この先いろいろなところに住んでみたいとか、どこを目指してどういうふうに生きていくかっていうのは、まだまだ模索中で、いまここで言ってしまうと薄まる気が……。
宮西:なんとなくわかります。 僕は……、やっぱり宮西さんらしいね、っていう絵を描いていきたい。いま、これが流行ってるから飛びつこうとっていうのはないですね。優しさと思いやりのある本を描いていきたいなって、それだけはいつも思ってます。それを外したら、宮西達也じゃなくなるって思います。

最後に『にゃーご』(鈴木出版)のトラネコのたまがゲスト出演
宮西達也ワンダーランド展 ヘンテコリンな絵本の仲間たち [会期] 2015年7月25日(土)~9月23日(水・祝)
[会場] 世田谷文学館2階展示室
[休館日] 月曜日 ※ただし9月21日(月・祝)は開館
[料金] 一般=800(640)円 65歳以上、高校・大学生=600(480)円 障害者手帳をお持ちの方=400(320)円 中学生以下無料 ※( )内は20名以上の団体料金
※障害者手帳をお持ちの方の介添者(1名まで)は無料
[主催] 公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館
[協賛] 野崎印刷紙業、東邦ホールディングス
[協力] アリス館、岩崎書店、えほんの杜、学研教育出版、教育画劇、金の星社、講談社、鈴木出版、チャイルド本社、ひさかたチャイルド、ポプラ社、ほるぷ出版、メイト、円谷プロダクション、ウルトラマン商店街、啓文堂書店、世田谷おはなしネットワーク
[企画協力] TATSU屋CORPORATION、渋谷出版企画
[後援] 世田谷区、世田谷区教育委員会
<執筆/Hosaka . 撮影/木瀬谷>