ファミコン・イズ・フォーエバー! 『ファミコンクエスト』刊行記念イベントレポート
2015年8月9日、秋葉原の書泉ブックタワーにて、三才ブックスから刊行された『ファミコンクエスト ~世界を冠したゲーム機のすべて~』(以下、ファミコンクエスト)の刊行記念イベントが開催された。
当日のイベント会場席は満員の客で埋め尽くされ、ファミコン世代でない小学生から、ゲームセンターCXの有野課長のコスプレ姿をした大人まで、たくさんのファミコンファンが集まった。
ファミコンは83年に誕生し94年に最後のソフトがリリースされたのを最後に、これ以上の拡張がないにも関わらず、なぜいまだ多くの新旧ファンを擁しているのか?
その秘密を解き明かすのがファミコンクエスト本書であり、秘密の実像を垣間見たのが当イベントであった。
<ファミコンはパチモノパラダイス?>
イベントにはファミコンクエスト著者の冨島宏樹氏、ライター、コラムニストのジャンクハンター吉田氏、ゲームコレクターの酒缶氏が登壇し、熱いファミコン愛を語った。
[吉田] コレクターでもあるお二人が、ファミコンカセットをコンプリートしようと思ったきっかけを教えて下さい。
[冨島] 私のファミコンマイベスト5に、『東方見文録』、『アイドル八犬伝』があるんですが、まあ、アレな内容で(笑)。「こんなゲームがあったのか!?」とえらくショックを受けて、「とんでもないカルトゲームがまだたくさんあるかもしれない!」と思って集め始めました。
[酒缶] 僕はリアルタイムでファミコンを遊んでた世代ですが、ファミコンから離れてパソコンをいじるようになった94年ごろ、パソコンとファミコンを繋げて遊べるようになってから再び遊び始めましたが、その頃にはファミコンのソフトがほとんどリリースされなくなってて、それが寂しいなーと思って買い集めました。
ファミコンカセットは全部で1252本ありますが、持ってないのが5本くらいあって、なかでも『アイアムティーチャー ~てあみのきそ~』という毛糸の手編みノウハウを教えてくれるソフトはさすがに遊ばないだろうと思ってノータッチです。
[吉田] ディスクシステムならコピーソフトをゲットできたんじゃないですか?クイックディスクや子育てごっこ(注:ディスクシステムゲームをコピーするソフト)もありましたし。
私の子供のころ、メカに詳しい先輩が、外装が段ボールのディスクを自作してましたよ。それを2台繋いだディスクシステム本体を使ってコピーして。
[酒缶] いやいやいや(笑)。地元で緑色のディスクシステムソフトに書き換えをやって売っていたお店もありましたけど。(言いにくそう)
[吉田] (お客さんを見渡しながら)そういうアングラな話も聞きたいですよね?
ー客一同拍手。
[吉田] パチモノもいっぱい持ってるんじゃないですか?
[冨島] パチモノならこういうものがありますよ。
[吉田] (クルマ型の本体を手に取って)これファミコン本体ですか!? かっこいいデザインですね! ちゃんと車輪が回って走ります(笑)。裏側には『ファミリゲームプレイヤー』って、微妙に商標をぼかす表記があって、音声端子は一見ステレオですが、これは疑似ステレオで中身はモノラル音声ですね(笑)。
[吉田] こっちは外見X-BOXですが、蓋を開けるとファミコンカセットを挿す端子が(笑)。
[吉田] こっちはセガサターン本体のようです。
作られたのはアジア某国のようですが、当然、これらは生産の許可を取ってないですよね?(笑)
[冨島] 取ってませんね(笑)。
アジア某国のリサイクルショップやゲーセンのUFOキャッチャーには、こんなパチモノ本体が無数に並んでて、作られた国や年代によってモデルが違うのでコンプリートは不可能です。アジアではファミコンはまだまだ現役なんですよ。
[酒缶] そのうちプレステ4型のファミコン本体もできるんじゃ(笑)。
[吉田] 怪しくて面白いな~(笑)。
[冨島] 今では、中古ソフトは古本屋で買うしかないのかな?
[吉田] いや、古本屋で買うと、某有名古書店が値段の基準を設定していて高価だと思います。フリマに行くと、家に置いておくのが邪魔で安く売られてたりするんですよ。5本まとめ買いで500円の中に、お宝ソフトが埋もれてたりね。
[酒缶] 箱なし説明書なし状態のソフトって安く売られてるから、僕はそれを目当てにコンプリートリストを作って買い集めてましたよ。
昔、任天堂にディスクシステムのディスクを送れば有料でソフトデータを書き換えてくれてたんですが、それを目当てにネットオークションで『ディスクソフト100本まとめ売り!』みたいなのを買って、コンプリートしました。
他にも、ゴムベルトの切れたディスクシステム本体を安く購入して、アマゾンで売ってる交換用ゴムベルトを買って自分で修理したり。
<ジャンクネタの宝庫、説明書>
[吉田] ゲームソフトを集めている人はたくさんいますが、説明書を集めて『説明書文化』を提唱する人がいないんですよね。
実は説明書ってすごく面白いネタがいっぱいあるんですよ。『ソンソン』の説明書に、岡本吉起が描いた絵が載ってたり。(注:岡本吉起氏は『ストリートファイターシリーズ』、『バイオハザード』で有名なメーカー、カプコンの元専務取締役)
[酒缶] ファミコンクエストでも使われている「クエスト」って、何をきっかけに世に広まったかひとに聞くと、たいていドラゴンクエストと答えられるんですが、実はそれ以前にスーパーマリオブラザーズの説明書内で使われているんです。
(説明書を取り出して)ストーリー説明文に「テレビの中のマリオはあなたです。このアドベンチャークエスト(遠征)を完結できるのはあなただけです」って、ドラクエより先に「クエスト」が使われてます。
他にも、ゲームジャンルを「このゲームは右方向スクロールの”ファンタスティックアドベンチャーゲーム”です」って説明してます。
[吉田]、[冨島]
ファンタスティック(笑)。
[酒缶] 他にも、シューティングゲームの『頭脳戦艦ガル』の箱には「スクロールロールプレイングゲーム」と表記されてますし、異色シューティングゲームの『キングスナイト』の箱には「ニュータイプのロールプレイングゲーム」と表記されてます。
[冨島] スクウェアエニックスのホームページには今でも「ロールプレイングゲーム」と表記されてます(笑)。
当時はまだゲームジャンルが明確に分けられてなかったので、こうした独特の言い回しが生まれたんでしょうね。
[酒缶] 『エリュシオン』と『メタルマックス』の箱には、「RPG」を「”P”RG」と明記してあったり(笑)。ルビは「ロールプレイングゲーム」なんですけど。
[吉田] それは立派な誤記ですね(笑)。メーカーがやっちゃうんだ(笑)。
[冨島] そういうところも含めて、非常に大らかだった時代だったと(笑)。
<ファミコンは、何度でもクエスト(遠征)され続ける>
この他にも、数多くの話が披露されたが、あまりにも過激すぎるネタがほとんどだったため、会場内で「ネット禁止!!」のおふれが吉田氏より発令され、お客さんはここだけの貴重な話を聞いてイベントはお開きとなった。
この日披露されたネタだけでもかなりレアな内容であるが、これらは本書ファミコンクエスト内では扱われなかった、いわば購入者だけのボーナストラック的なネタである。
ファミコンクエスト本編は、【第1章 ファミコンクロニクル】、【第2章 ファミコンジャンル】、【第3章 ファミコントピックス】といった構成で、ファミコンの歴史、ジャンル、社会ムーブメントを詳しく解説しており、さらに【非売品ソフトの世界】、【特別企画 ファミコンジアフター】などといった番外コラムも充実している。
ファミコンは、ネットと3Dが当たり前の昨今のゲーム業界において、いまだにファンを作り続けているという”ファンタスティック”ゲームマシンである。2015年の夏には映画『ピクセル』も公開され、CS放送では10周年を迎えた人気番組『ゲームセンターCX』も放送中で、ニコニコ動画やYouTubeではファミコンゲーム実況が投稿され続けている。
30年以上昔に生まれたピコピコゲームマシンに、世界中がなぜここまで魅了され続けているのかは誰にもわからない。
わからないがゆえに、何度でもクエスト(遠征)したくなるのだろう。
『ファミコンクエスト ~世界を冠したゲーム機のすべて~』(三才ブックス刊)を片手に、ネット検索したり、フリーマーケットや秋葉原をぶらついてみてはいかがだろうか?
【出演者プロフィール】
・冨島宏樹
ライター。月刊ゲームラボで「ファミコンワンダース」、「ファミコンジャンル」、「ファミコン探険シリーズ」、「ゲームボーイ進化論」ほかレトロゲーム連載を手掛ける。正規販売されたファミコンソフトはROMカートリッジ、ディスクを合わせてすべて所有するコレクターでもある。
・ジャンクハンター吉田
月刊ゲームラボで「日の目を見なかったゲームたち 蔵ゲーの世界」を担当。ゲーム、映画関連メディアでライター、コラムニストとして幅広く活躍する。著書に「ゲームになった映画たち シネマゲーム完全読本」がある。
・酒缶
15000本以上のゲームを所有する国内屈指のコレクター。3DS用DLソフト『ダン
ジョンRPG ピクダン2』などのゲーム開発に参加する一方で、ゲームラボをはじ
め「ゲームサイド」等のゲーム誌、「Gamer」等web媒体での執筆活動も行う。
<執筆/Hosaka . 撮影/木瀬谷>